<2・政略。>

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「ドラゴニスト王国も、オーガスト聖国も、軍事力という意味ではガンブレイズ帝国に遥かに劣る。両者が結託して立ち向かったところで、トロール連邦の二の舞になるだけだ。ゆえに、ドラゴニスト王国が急務としているのは科学力や軍事力の発展ではない……あの国にしかない、魔術、魔法の力なのだ。魔法の力によって、自国を守ろうとしているわけだ」  そのために、と彼はくるん、と人差し指を回した。そしてそのまま、エミルの額の中央を指さす。 「この婚姻で、二つの目的を果たそうとしているらしい。かつてこの国を支配した強い鬼……その鬼の力と持つお前と、竜の一族の息子。両者を結婚させ、両国の結束を高めたいということがひとつ。もう一つは……鬼であるお前に、竜の一族の息子の魔術を補佐する役目をして欲しいというのがあるという」 「補佐、ですか?」 「どうやら、竜の一族の魔術は複雑なものらしく、補佐をしてくれる者が優秀であればあるほど力を発揮できるらしい。そんために、優秀な補佐官が必要だというのだ。お前に妻であると同時に、仕事の上でのパートナーも任せたいとのこと。残念ながら、それ以上のことは教えて貰えなかった。というか多分、町長もこれ以上詳しいことは知らんのだろうな。竜の一族の魔術に関しては極秘中の極秘であろうから」  なるほど、とエミルはようやく納得した。同時に、何故父がそこまで知っていて渋い顔をしているのかどうか、ということも。  つまりこの婚姻は、表向き以外にも理由があるということである。恐らく町長の方から直々に国に働きかけ、話を回してもらったのだろう。――忌まわしい、鬼の先祖返りであるエミルを、体よく国外へ追放するために。 「それ、本当に姉貴じゃないとダメなのかよ」  同じことを思ったらしく、カミルが声を上げる。 「国同士の結束を強めるためっていうなら、何も鬼の末裔から嫁を出す必要ないじゃないか。向こうが婿入りしたっていいし、つか、大統領の娘とかが嫁入りしたっていいわけじゃん!なんでこんな小さな町でひっそり暮らしてる姉貴が、そんなとんでもないところに嫁入りしに行かないといけないわけ!?ようは町長が理由つけて、姉貴を町から追い出したいだけじゃないか!」 「カミル……」 「俺は反対だ!散々姉貴を虐めておいて、体のいい理由ができたからって今度はたった一人でそんなわけのわかんねえ一族に嫁に出せなんて!どうして姉貴ばっかり、こんな目に遭わないといけないんだよ。生まれた時からこの町の住人で、見た目だって髪の毛と眼が赤いくらいじゃん。体だってちょっと長身なだけだ。ちょっと力が強いくらいだ。それでまるで、厄介払いみたいなこと……!」  くしゃり、と弟の愛らしい顔が歪む。
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