<3・決断。>

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 ***  オーガニスト聖国において、実は“オーガニスト”という苗字を持つのは鬼の血族のみであったりする。この国が鬼の支配下にあり、かつ王政であった頃は王族の神聖な苗字であったそうだ。残念ながら現在は違う。この苗字を持つ者は、かつて人々を虐げた鬼の血を繋ぐものとして忌み嫌われる傾向にあるのだ。  それでも両親が結婚の折、エミルの母がオーガニストの苗字に変わることを選んだのは――二人でよく話あった末のことだという。母は、鬼の正しい歴史を理解していた。そもそも、母自身もまったく鬼の一族と無関係ではない。血が濃いのは父の方だったが、実は母も遠い親戚であるという。  鬼と人が争ったのははるか昔のこと。  現在人々の間には、一方的に鬼が悪かったように伝えられているが、実際は悲しい種族間でのすれ違いがあっただけということ。鬼にも鬼の、人と同じ心があったということ。苦しみも愛もあり、その果てに誇りをもって血を繋ぐことを選んできたのだということ。  ただ、エミルのように先祖返りで、かつての鬼と同等の力を覚醒させてしまう者は極めて稀だという。――実際もし、エミルが普通の人間と同じ見た目と、普通の少女程度の腕力しか持っていなかったのなら、きっとこの話も来なかったことだろう。同時に、家族が町であそこまで虐げられるような結果になることも。 ――竜の一族も、同じようなものなんだろうか。  竜。  おとぎ話の中では、その姿を見たことや聞いたこともある。あるいは、テレビアニメの世界ではたびたび登場する生き物だ。長い体をくねらせ、全身にびっしりと鱗を纏い、顎髭を称えて海や空を自由に泳ぐ巨体。もしくは、体がもうすこしずんぐりとしていて、背中にコウモリのような羽根が生えているなんてパターンもある。  ドラゴニスト王国にいるという、竜の一族はどのようなものなのだろうか。  ドラゴニスト王国の御料車に乗せられて揺られながら、エミルはひたすら考えていたのだった。いかんせん、自分は結婚相手はもちろんのこと、一族の家族の写真さえ見ていないのである。 ――どんな人だろう。ていうか、これ馬子にも衣裳ってやつじゃ。……絶対似合ってないよ、私……。  エミルは己の体を見下ろしてため息をついた。  婚礼は、ドラゴニスト王国の方式に則って行われる。エミルは“旅立ちの花嫁”が着るという、緑色のカラードレスを着て車に乗せられていた。  エミルの身長は、現時点で188cmもある。十六歳なので、まだ伸びるかもしれないという。そのせいで、ドレスはオーダーメイドで用意しなければいけなかった。どうしてもサイズがなかったためである。現在隣に乗っている、花婿の家の執事よりエミルの方が身長が大きいほどだ。
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