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登山サークル
「高橋、免許持ってる?」
お手洗いから戻ったら、倉田が私に声をかけてきた。
「持ってるけど」
「あぁよかった。間違えてウーロンハイ飲んじゃったから帰りの運転頼んだ。」
「えっ……」
みんなで登山をし、銭湯に行った後で、居酒屋に入った。
私はお酒は弱いので一切飲んでない。
だが、急に運転しろと言われても、私は免許を取ってから二年間一度も運転していない。
「いや私……」
拒否しようかと思ったが、このお店ももうすぐ閉店だ。出ていかなきゃならない。飲酒運転をさせるわけにはいかない。
とりあえず運転が下手だと説明したが、倉田に「俺が隣で見てるから大丈夫」と言われ、逆に大丈夫じゃない予感がしながら久しぶりに運転することになってしまった。
しかも、登山をして疲労した上に、夜間に酔っ払い達を乗せての恐怖運転。
「よし、みんな乗った?」
「乗ったぁ」
「いや、倉田がいなくね」
「助手席にいんぞ」
「……」
まだエンジンもかけていないが不安だ。
倉田の言葉で、みんなが見てれば人をひくこともないかと思ったが、この酔っぱらい達では全くあてにならないじゃないか。
エンジンをかけて、ミラーと運転席の位置を調整し、ペダルを踏むが、動かない。
逆のペダルだったのか?
「ねぇ、アクセルが右でブレーキが左だよね?」
「そうだよ」
ゆっくりとアクセルを踏むが全く動かない。
何故だと思ったところで、ハンドブレーキとチェンジレバーの存在を思い出した。
アクセルから足を離してチェンジレバーをドライブにし、ハンドブレーキを下ろした。
「えっ、なんで勝手に動くの!?」
「クリープ現象だから。おまえブレーキ踏まずにハンドブレーキ下ろしただろ」
「あっ……」
やってしまった。最初はブレーキを踏んでないとダメだったんだ。そんなことすっかり忘れていた。
ブレーキを踏み、一旦止める。
「高橋ぃ、まだ走らないのかぁ」
「ご、ごめん」
「焦らなくていいから、ゆっくり運転しな」
倉田はほとんど酔ってないのかまともなことを言ってくれる。
ちょっと焦りながら、でも慎重にペダルを踏んで、ゆっくりゆっくり車は発進した。
数分走って信号まで辿り着いた。
幸いもう遅い時間だからか他の車とすれ違うことはなかった。
赤信号なので止まって安心しているとあることに気づいた。
「あっ、シートベルトするの忘れてた」
「……まじ?」
後日この時の話を倉田が何度も揶揄ってくる羽目にになる。
この車は普通、発進してシートベルトをつけていないと警告音が鳴るらしい。
だが、例外がある。
それが徐行をしている時。
時速10km以下だとシートベルトをつけていなくても、警告音が鳴らない。
つまり、この時の高橋は、自転車より遅い速度で走っていたのだ。
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