2.

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 山の麓にある木造の古小屋。 「木の風合いがあって、とっても素敵なお家ですね!」 「……そうか」  所々で床板が軋むような家に、場違いな美人が足を崩して床に座っていることは夢にも見なかった光景。  ローランドはカミーユと共に夕飯を済ませると、大きく澄んだ蒼い瞳で見つめてくる彼女に訊いてみた。 「本当に何も覚えてないのか?」 「はい……自分でも、急に変になってしまったのかなとは思ってるんですけど――」  溜息混じりに落胆するカミーユに、ローランドが自分のベッドを譲って寝床につく。 「気を遣って頂いてすみません……おやすみなさい」    と、何も知らず安らかに眠る彼女の寝顔を見つめながら、ローランドは神妙な面持ちをしていた。  カミーユの記憶喪失は、嫁にするのに好都合。  彼女の生まれ故郷を探してやりたい気持ちがない訳ではない。それでも“カミーユにはこのままでいて欲しい”と願うローランドは、心の奥底に罪悪感を残しながらも就寝した――。  翌朝。  小鳥も囀る前の早朝から、物音に起こされたローランドがふと台所を見遣ると――そこには何かを調理するカミーユの後ろ姿があった。やはり服の大きさが釣り合わないのか、彼女の腰にはいつの間にか紐が縛られている。 「あ! ごめんなさい、起こしちゃいましたね」  振り向き様に見せたカミーユの屈託のない笑顔は、ローランドの心臓を大きく突き動かした。 「そんな……飯の支度なんて俺がやるのに」 「いえいえ、お世話になりっぱなしという訳にはいきませんから――」  大した食材はないにしろ、カミーユは出来る限りの腕を振るって手料理を作り上げた。そんな健気な彼女の心意気に、ローランドはもはや“ぞっこん”になってしまったのである――。  そんなこんなで、カミーユの記憶も取り戻せない日々が続く中。 「いってらっしゃい、気を付けて帰ってきてね!」 「……うん」  ローランドは彼女の様子を見る限り、すでに心中で察していた。恐らく――彼女の記憶が戻ることはないだろうと。  このままいけば、すんなりとカミーユをお嫁さんに出来そうな手応えを感じ始めていたのである。  猟を終えたローランドが帰宅すると、いつものようにカミーユは飯と風呂の支度を整えており、天使のような笑顔で迎えてくれた。 「おかえりなさい!」 「ただいま……すまん、今日は何も穫れなかった」  浮かない顔で俯くローランドから荷物を受け取ったカミーユが「ローランドさんが無事に帰ってきてくれるだけで、私は充分ですから」と、安心したようにニコニコと微笑んでいる。  そんな彼女を――ローランドは後ろから強く抱きしめた。 「君が良ければ、このまま俺の嫁さんになってくれないか?」 「え……?」  突然のことに驚きながらも、カミーユは身体に被さる太い腕に、そっと優しく白い手を添えると――コクリと頷きながら「……はい、私なんかで宜しければ」と小声で返した。 「カミーユ……」 「あ、ちょ、ローランドさん!? ――」  念願の嫁を手に入れた余りの嬉しさに、ローランドはカミーユをベッドに押し倒してそのまま服を乱暴に剥ぎ取った。  そして、ずっと我慢していたのを爆発させるように――彼女の滑らかな肌を激しく貪り始める。  最初こそ抵抗気味だったカミーユも、次第に全身の力をふんわりと抜いて彼に身を委ねた。  その透き通るような素肌と豊満で柔らかな胸は、ローランドの意識をたちまち天国へと導いたそうな――。  次の日。  大きな麦わら帽子を目深に被ったローランドは、猟で得た獲物の肉や毛皮を売りに、隣町まで出向いていた。そこで得た金で食料や日用品なども調達するのである。  しかし、ローランドの目的はそれだけではない。  その時、彼はいの一番に『質屋』へと訪れていた。ずっと隠し持っていたカミーユの衣装を“隠蔽処分”するためだ。  すると、差し出したその衣装を手に取った店主がやおら目を見開いた。 「……こ、これはまた見事な逸品で御座いますな」  今まで沢山の取引をしてきた店主ですら“見たこともないほど芸術的だ”と言うその衣装には、ローランドの目が飛び出るほどの高値が付けられた。 「じ、冗談だろ……こんな値段、畑も買えてしまうぞ?」 「いいえ、これにはそれほどの値打ちが御座いますから。しかしこんな御召し物、一体全体どこで手に入れられたのですか?」 「あ、ああ……猟をしている最中、偶然落ちていたところを拾ったんだが、こんなもの俺が着れるはずもないと思ってな――」  咄嗟に店主の問いを有耶無耶にしたローランドは、衣装を売って手にした大金を持ち、カミーユの待つ自宅へ浮かれ気分で帰って行った――。 「こ、こんなお金どうされたんですか!?」  帰るや否や驚愕するカミーユに対して、ローランドが後頭部を手で摩りながら苦笑いを浮かべる。 「と、隣町で預けていた貯金を下ろしてきたんだ……これで畑が出来る土地を買おうと思ってな。以前『野菜の栽培をしてみたい』と言っていただろう?」  動揺しつつも嘘に嘘を重ねたローランドは、おもむろに“指輪”を取り出した。これは無論、あの質屋で買ったものである。  そして、口に右手を添えながら戸惑うカミーユの左手を取り、薬指にそれをはめた。 「結婚指輪だ。これからもずっと俺の側にいてくれ」 「嬉しい……本当に嬉しいわ……ありがとう!」  薄らと涙を浮かべていたカミーユは、満面の笑みを浮かべてローランドに飛び跳ねるように抱きつき、踵を上げながら優しさで包み込むような甘い口付けをした――。
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