9人が本棚に入れています
本棚に追加
俺と母を捨てた父親と、その家族
それは、希夢が高3の夏休みで、とても暑い日だった。
希夢は、喫茶店に、呼ばれた。
母や希夢と別居してしまった父親に、希夢は呼び出された。
父親と希夢の母親は離婚していない。母親が頑なに離婚を拒んでいるからだ。お陰で母親と希夢は父親から一銭も貰っていないのに、母子家庭にもなれないから、公的援助もなく、生活はとても苦しい。
希夢は喫茶店の店内で、父親を探す。
希夢は父親だけがいると、勝手に思っていた。
けれど違った。
父親の、別居の原因となった女と、二人の間に出来た子供が2人いた。子供は、小学生低学年の女の子と、生まれたての赤ちゃんだ。
父親と女の間に、子供がいる事は知っていたが。希夢は初めて、希夢の妹たちを見た。
希夢は思う。
――不意打ちで、女と妹たちに会わされた――
――母さんに、申し訳ない――
希夢は席に座りながら聞いた。
「子供、いくつ?」
父が嬉しげに答えた。
「2ヶ月だよ。おまえの妹だ。可愛いだろう?」
父親の笑顔に、希夢は一気にムカついた。
「子供って、10ヶ月で産まれるんだろう? だったら、12ヶ月前に仕込んだんだろう? つまり12ヶ月前にセックスしたから、そこのが今ここにいるんだろう?」
父が、希夢の妹たちを見て、かなり慌てる。
「おい、希夢、そんな事は言うな」
希夢は言うのを止めない。
「 お前らは不潔な関係だ。この子たちが、俺の妹とは認めない」
小学生の妹が、希夢を見ていた。
希夢は、妹たちに言ってはいけない言葉を、発したと言う自覚はあった。
希夢は、心のなかで、妹たちに謝る。
それでも、言わずにはいられなかった。
父親が声を大きくする。
「何を言うんだ! 子供の前だぞ」
希夢は止めない。
「何度でも言ってやる。この赤ん坊は、1年前にお前たちが、セックスしていた証拠だろう?」
父親が怒る。
「親に向かって何って言い草だ」
希夢は止まらない。
「12ヶ月前、俺は金が無いから、コンビニで夏休み中バイトしてたんだ。模試を受ける金や、参考書を買う金もなくて。母さんの稼ぎだけじゃ無理だから……。今年の夏だってバイト三昧だよ。その間、アンタらは、お楽しみだったんだ」
父親が言う。
「だから家を売ろうって言ったんだ。俺が家を出てから、曜子は一人で、家のローンを払っているんだろう? あの家を売れば、ローンの残額を差し引いた金も入るんだ」
希夢父親をにらみつける。
「本当に、アンタは勝手だな」
父親が困った顔をした。
「俺が勝手なのは知っている。だからと言って、言って良いことと、悪いことがある」
希夢はまだ言い続けた。
「俺と母さんが苦しんでいる時に、アンタらは、楽しくいちゃついて、子作りしてたんだ」
父親が堪らず、希夢の頬を打った。
周りの客が、希夢と父親を見る。
それで、父親は、正気に戻る。
「この場で言う話じゃないだろう」
希夢は殴らえた頬を撫でる。
「大学を受けるのいくら掛かるか知っているのかよ。1つの大学を受験するだけで、3万から5万は掛かるよ。ホテルや宿泊費が掛かる大学もあるんだ」
父親が言う。
「分かっているよ」
希夢は父親に絡んだ。
「殴っていいから、金をくれよ。仙台のじいちゃんが心配して、年金から受験代くれたんだぞ。じいちゃんまで心配しているのに、親父は俺を心配しないのか?」
父親が珍しく謝罪した。
「悪い。俺は、自分の家庭の事で、ギリギリなんだ」
女が布製の大きなトートバッグから財布を出した。
ボロボロの財布だった。
最初のコメントを投稿しよう!