俺と母を捨てた父親と、その家族

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俺と母を捨てた父親と、その家族

 それは、希夢(のぞむ)が高3の夏休みで、とても暑い日だった。  希夢(のぞむ)は、喫茶店に、呼ばれた。  母や希夢と別居してしまった父親に、希夢は呼び出された。  父親と希夢の母親は離婚していない。母親が頑なに離婚を拒んでいるからだ。お陰で母親と希夢は父親から一銭も貰っていないのに、母子家庭にもなれないから、公的援助もなく、生活はとても苦しい。  希夢は喫茶店の店内で、父親を探す。  希夢は父親だけがいると、勝手に思っていた。  けれど違った。  父親の、別居の原因となった女と、二人の間に出来た子供が2人いた。子供は、小学生低学年の女の子と、生まれたての赤ちゃんだ。  父親と女の間に、子供がいる事は知っていたが。希夢は初めて、希夢の妹たちを見た。  希夢は思う。  ――不意打ちで、女と妹たちに会わされた――  ――母さんに、申し訳ない――  希夢は席に座りながら聞いた。  「子供、いくつ?」  父が嬉しげに答えた。  「2ヶ月だよ。おまえの妹だ。可愛いだろう?」  父親の笑顔に、希夢は一気にムカついた。  「子供って、10ヶ月で産まれるんだろう? だったら、12ヶ月前に仕込んだんだろう? つまり12ヶ月前にセックスしたから、そこのが今ここにいるんだろう?」  父が、希夢の妹たちを見て、かなり慌てる。  「おい、希夢、そんな事は言うな」  希夢は言うのを止めない。  「 お前らは不潔な関係だ。この子たちが、俺の妹とは認めない」  小学生の妹が、希夢を見ていた。    希夢は、妹たちに言ってはいけない言葉を、発したと言う自覚はあった。  希夢は、心のなかで、妹たちに謝る。  それでも、言わずにはいられなかった。  父親が声を大きくする。  「何を言うんだ! 子供の前だぞ」  希夢は止めない。 「何度でも言ってやる。この赤ん坊は、1年前にお前たちが、セックスしていた証拠だろう?」  父親が怒る。  「親に向かって何って言い草だ」  希夢は止まらない。  「12ヶ月前、俺は金が無いから、コンビニで夏休み中バイトしてたんだ。模試を受ける金や、参考書を買う金もなくて。母さんの稼ぎだけじゃ無理だから……。今年の夏だってバイト三昧だよ。その間、アンタらは、お楽しみだったんだ」    父親が言う。  「だから家を売ろうって言ったんだ。俺が家を出てから、曜子は一人で、家のローンを払っているんだろう? あの家を売れば、ローンの残額を差し引いた金も入るんだ」  希夢父親をにらみつける。  「本当に、アンタは勝手だな」  父親が困った顔をした。  「俺が勝手なのは知っている。だからと言って、言って良いことと、悪いことがある」  希夢はまだ言い続けた。  「俺と母さんが苦しんでいる時に、アンタらは、楽しくいちゃついて、子作りしてたんだ」  父親が堪らず、希夢の頬を打った。  周りの客が、希夢と父親を見る。  それで、父親は、正気に戻る。  「この場で言う話じゃないだろう」  希夢は殴らえた頬を撫でる。  「大学を受けるのいくら掛かるか知っているのかよ。1つの大学を受験するだけで、3万から5万は掛かるよ。ホテルや宿泊費が掛かる大学もあるんだ」  父親が言う。  「分かっているよ」  希夢は父親に絡んだ。  「殴っていいから、金をくれよ。仙台のじいちゃんが心配して、年金から受験代くれたんだぞ。じいちゃんまで心配しているのに、親父は俺を心配しないのか?」  父親が珍しく謝罪した。  「悪い。俺は、自分の家庭の事で、ギリギリなんだ」    女が布製の大きなトートバッグから財布を出した。  ボロボロの財布だった。  
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