会いたいんだと、綾に言う

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会いたいんだと、綾に言う

 喫茶店を出て、数分歩いて。  希夢は立ち止まった。  歩道の端に寄って、携帯電話をポケットから出す。  「あ……、メッセージがきている」  芹那からのメッセージだった。  芹那は希夢の彼女だ。  付き合って、3ヶ月位経つ。  希夢は、芹那の通知を読んだ。  ”今、何処にいるの?”  ”今、ウチ、塾おわた”  ”会えない?”    希夢は、通知だけ見て、芹那からの通知をタップしない。    希夢は、携帯画面を操作する。  アプリを開き、芹那のアイコンをタップする代わりに、綾のアイコンをタップする。  続いて、通話マークをタップした。  希夢が、じっと画面をみていると、10コール目に、通話が開始された。  それで、希夢は、携帯を耳に押し当てる。  綾の声がした。  「なにか用?」  希夢が言う。  「会いたいんだ」  綾が驚いて言う。 「いきなり何? なにかあったの?」  希夢は理由を言いたくない。 「何となく会いたくなって……」  希夢の声の調子で、綾は悟る。  長い付き合いだから、綾は希夢の声だけで分る。  希夢に、何かあった事を、綾は知る。    綾は、素知らぬフリで、希夢に応える。 「いいよ、うちに来なよ。勉強教えて」  綾は希夢の幼友達で、幼稚園から一緒だった。  母親同士がとても仲が良く、高3になった今も、親公認で、時々お互いの家を行き来している。  綾は、希夢の、一番近い友だちだ。  そして、母親ぐらい大事な人だ。  換えのない効かない大切な人だ。  希夢は、通話しながら、あるき出す。  「勉強をしていたの?」  綾が言う。  「そうだよ。勉強苦手だよ。希夢は得意じゃん?」  「まぁ、普通には出来る」  「じゃ、待っているね。わからない部分を、教えてね」  プチッ  いきなり、通話が切れた。  希夢が携帯を耳から離して、画面を見た。  希夢が、携帯画面を見ながら言う。  「直ぐに切るなよぉ」  希夢は、駅に入っていく。  改札を抜ける。  電車に数駅乗って、降りた。  駅から15分も歩くと、綾の家につく。  希夢が綾の家のインターフォンを押した。  すると、インターフォンから返事がないまま、玄関の戸が開けられた。  玄関の扉から、綾が現れた。  綾が満面の笑みで言う。  「暑かったでしょう? 入って! 冷たいお茶飲む? ジュースはないな」  希夢が頷く。 「ジュースはいらないよ。甘いの苦手だって知っているだろう?」  そして玄関の中に入って行く。 「一応礼儀だと思って言ってみた」  希夢が笑う。  「今更、礼儀もないだろう?」  綾がニッと笑う。 「お菓子もないな。でも、おにぎりならあるよ」 「なんでおにぎりがあるの? ママが握ったの」  希夢も綾の母親をママと呼んでいる。 「ママじゃないよ。私が握って、お昼に食べた余りなの」 「綾が握ったのなら食べる」  綾が心配そうに聞く。  「相変わらず、希夢のママと自分で握ったおにぎりしか食べられないの?」  「そう。あと、綾が握ったのも平気だよ」  「何がダメなの?」  「何って。他所の家の、家庭料理が苦手なんだ。素人が、手でこねたのがイヤなんだよ。ハンバークとかクッキーとかさ。お店のなら良いけど」    希夢が玄関で靴を脱ぎながら聞く。  「それより、俺、汗臭くない?」  綾が、希夢の直ぐ側まで顔を寄せて匂いを確かめた。  少し難しい顔をして、綾が言う。  「まぁ、確かに、臭い」  臭いと言われて、希夢は慌てる。  「俺、やっぱり、着替えてからまた来るよ」  希夢の家は、すぐ側だ。  綾が笑う。  「うそぉ――。臭くないよ」  「騙すのよして」  希夢が不満を言う。  綾が笑うのを止めて言う。  「でも、汗だくだから、そのままクーラーに当たったら、風邪を引くよ。私のTシャツ着たら良いよ。ちょっとそこで待っていて」    玄関で希夢が待っていると、綾が自分の部屋に行き、ビックサイズのTシャツを持って戻ってきた。  綾が、希夢にTシャツを渡した。    その場で、希夢が着替える。  希夢は上半身裸になったが、綾は気にしない。  当然、希夢も気にしない。  そして綾と希夢は、リビングへ移動した。
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