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未読無視 着信拒否
ダイニングテーブルで、希夢と綾は、横にならんで座る。
テーブルには参考書や文房具にノートやプリント、それから綾が冷蔵から出して置いた、おにぎりとお茶がならんでいる。
綾はプリントを、希夢に見せて言う。
「これが意味さえわからないんだよね」
希夢はプリントを見る。
「それはぁ……」
希夢が説明し、綾は聞き入った。
ひととおり説明して、綾が例題を解き始めると、希夢はおにぎりを手に取る。
希夢は希夢についての、簡単な説明をした。
「今日は、まだ何も食べていないんだ」
もし複雑な説明をしたなら、父親に会う緊張が、ここ数日希夢を食べられなくしたのだと、希夢は述べただろう。
希夢は、おにぎりを半分ほど頬張ると、おにぎりを見つめた。
「このおにぎり、旨いな」
緊張がやっと解けたのだ。
希夢は、食べ物が美味いと、ようやく思った。
この数日、食べ物が美味いと思えなかったのだ。
綾は参考書から目を離さず言う。
「そう? シャケは瓶詰めだけどね」
「簡単で良いな」
希夢も、作ってみようと思う。
綾が合いの手を入れる。
「そう、そう」
30分も勉強をしていると、テーブルに置かれた希夢の携帯が、振るえだした。
しかし、希夢は携帯を見ない。
煩く続く振動音に、綾は苛立ちを覚えて言う。
「携帯がバイブしてるよ」
希夢は、テーブルに置いた携帯を、チラッと見た。
「ああ、分かっているんだ」
「電話に出ないの?」
希夢はぶっきらぼうに答えた。
「良いんだ。今、気力ないから」
綾は、電話をかけてきた時の様子を思い出す。
「疲れたの?」
「うん」
綾は希夢に、何かあったに違いないと、思っていたんだけど、今まで聞かなった。
綾は思い切って聞いた。
「何をしてきたの? 何かあったの?」
「言いたくない」
希夢の言葉に、綾は拒絶を感じた。
綾は、それで、聞くのを諦めた。
「じゃ、聞かない。そうだ、これ」
綾が立ち上がって、リビングの片隅に重ねて置かれた、本の束を抱えた。
それを希夢に渡す。
渡された本を、希夢が確認する。
「参考書と問題集?」
綾は再び腰掛けながら言う。
「あげるよ。私には必要ないから。兄のだからムズいんだよ。そんな高レベルの参考書や問題集は、私には必要ないから」
希夢がたずねる。
「綾は、大学は何処を受けるの?」
綾が体をよじり、体をほぐしながら言う。
「実は、体育大に推薦決まりそうなんだ」
「体育大か……」
「そうなんだ。私はソフトボールしか能がないから」
綾は運動神経が抜群だった。
「そんな事もないと思うけど。そう言えば、そろそろ引退だろ?」
綾が頷く。
「夏休み開けたらすぐ、1,2年生混合チームと、3年生チームの対抗試合があるんだ。その試合で、引退だよ」
「県大会で2位だったからな。全国行けてたら、まだ引退していなかったのにな」
「まぁ、仕方ないよ」
希夢は試合がみたいと思う。
綾がソフトボール姿は輝いていて、希夢の心を励ますからだ。
「引退試合、見に行くよ」
綾は嬉しい。
「本当? 来てくれる?」
希夢は、手渡された参考書や問題集を、確認しながら言う。
「行くよ。綾が頑張っている姿は、俺に元気をくれるから」
綾が嬉しげに笑う。
希夢が本を見ながら言う。
「しかし、こんなに沢山もらって良いの?」
「あげる、あげる。ママや兄も、希夢にあげたら良いと言っているよ。兄は頭が良かったじゃん」
「そうだな。兄さんは賢いよね」
希夢も、綾の兄と仲がいい。
小さい頃から、兄さんと呼んで慕っていた。
「兄は賢いからさァ。参考書や問題集も、私には高度すぎて使えないの」
確かにそうだろうと希夢も思う。
「じゃぁ、ありがたく使わせてもらう」
「2年前ので悪いけどね」
希夢は感謝でいっぱいだ。
「十分だよ。本当なんだ」
希夢の感謝に、綾が頷いた。
……その時、また希夢の携帯がバイブした。
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