6人が本棚に入れています
本棚に追加
そう、今の状況を一言で言うならば、多分俺平方に避けられている。授業中目が合えばそっとそらされて、廊下でも反対方向に俺がいれば、教室に入っていき姿を消してしまう。たまたまなのかもしれないと初めは思ったが今日でもう3回目だ。
避けられているに違いない。噂が届いたのだろうか。
「あー、今日の授業はこれで終わろっか。残りの時間は教室から出ないなら何してもいいぞ。」
一区切り着いたところで切りあげる。ちらりと平方の姿を見れば隣のヤツと話している。あの、入学式で隣に立っていたやつだ。
「平方、後で少しいいか」
なぜか、名前を呼んでいた。
平方は少し固まった後すぐにいつもの笑顔ではーいと返事をし、俺を見るニコリと笑った。今のは多分ほかの先生と変わらない対応だろう。やっぱり、避けられているわけではない?
「なんですか、センセー」
職員室に顔を出した平方に何故かほっとした俺はそのままいつもなら生徒を入れない準備室に連れて行ってしまった。特に読んだ理由もないのも思い出し準備室に行くまでになにかないかと思考する。そうだそうだ。プリントでも運んでもらおう。
「悪いな。この前のこのプリント、お願いできるか?」
「なんで僕?…あっ、すみません。はぁ…まぁいいか。ねぇ、センセー。センセーってやっぱり僕のこと嫌いでしょ?」
そう言っていつものように笑った平方の顔はいつにも増して綺麗で完璧な笑顔だった。
「なんで?俺どっちかと言うと平方のこと好きだぞ?」
まさか俺が平方のことを嫌っていると思っているとは予想外だった。確かにあの時教室で名前を呼んだのはやりすぎだったかもしれない。悪い事をした。
「わぁ、とても嬉しいです。僕も好きですよセンセーのこと。あ、このプリント持っていけばいいんですよね。では、失礼します」
笑顔を張りつけたまま平方はプリントをもって逃げるようにでも、足どりは至って普通に部屋を出ていった。敵意むき出しのようにも見えるし、普通に捉えれば好かれているようにも見える。
「なんだかなぁ」
やるせない。
完璧な笑顔を張りつけた優等生。
それが、初めて話した平方鳴の印象だった。
最初のコメントを投稿しよう!