『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -

10/117
前へ
/117ページ
次へ
8 w15 k2    ◇石田伸之[過去の恋愛]  石田は秋野百子が入社した年に主任という肩書が付いた。  実は社内で秘密裡に石田は先輩にあたる4才年上の山内美貴と 付き合っていたことがある。  所謂社内恋愛というヤツだ。  付き合い始めたのは伸之が24才で相手が28才の時だった。  美貴が30才の大台に乗った頃、それまで一言も結婚の二文字など 出ることはなかったのだが、流石に焦りを感じ始めたのかある日 『結婚のことを考えてほしい』と彼女から言われ、結婚はもう少し先でと 考えていた伸之だったが、美貴の気持ちを尊重し結婚に向けて 動くことになった。  即日父親に紹介したい女性(ひと)がいると伝えた。  年上だからという理由で反対されるかもしれないことは伸之も承知していた    が、本人に会ってもらえれば解消できると考えていた。  伸之と並んでもほどよくプロポーションに恵まれ美しい美貴は 違和感なく若々しい。  仕事もできる人で話題も豊富、それだから会話をさせても遜色なく 父親に気に入ってもらえるのでは、と思っていた。  当初は黙って自分の話を聞き『考えておこう』と言ってくれた父親が、 数週間後伸之に『待った』をかけてきた。  自分には言わず、いつの間にか調査していたようだ。 「伸之、山内さんに離婚歴があるのは知っているのか?」 と爆弾が落とされ、何も聞かされていない伸之はただただ驚くばかりだった。 「離婚の原因は子供のことのようだ」 「それって……」 「調査では彼女が不妊かどうかまでは分からなかったようだが離婚した相手に接触した感じでは、不妊もしくは子供を欲してなかったかどちらかの理由で、子供を持ちたくないという彼女と子供を持ちたいという元夫の意見の相違が原因で別れたらしい」  結婚だって彼女から言われるまで考えていなかった伸之なので、勿論子供のことなど話し合ったことすらなく、父親の話を聞いてもただただ他人事だった。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

345人が本棚に入れています
本棚に追加