『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -

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12     w21    私と秋野さんは会社から徒歩数分の最寄り駅近くの『フランソワ』という カフェに入った。  入り口のドアが濃い色合いのブルーで壁はシースルーのガラス張りに なっていて、一見小さな店舗に見える店。  しかーし、中に入ると嘘のように結構広々としている。  なんか、今日の石田さんみたいに込み入った話をするのにぴったし なのよね。  勿論(みんな)でわいわいやるのも良しって感じなんだけどね。  テーブルと椅子が木でできていて暖かさを感じるそんな店。  秋野さんと来る時は大体サンドイッチだとかケーキを頼むんだけど、 今日は秋野さん、石田さんと話をすることになるので、そんなもの頼んでもきっと喉に通らないと思うから、ここはお(ねい)さんが気を利かせて あげるね。 「え~と、私お腹すいちゃったのでサンドにし……」 「あぁわわ、あの秋野さん?」 「はい?」 「実はここの後、友だちから教えてもらった素敵なバーへ行こうかなって 思ってるの。だから軽食は後にしない?」 「わぁ~、素敵。分かりました。  黒田さんと飲みに行くなんて初めてですよね。  あ~ん、これが最初で最後になるかも」 「何々、意味深なこと言うねー」 「あぁ、実は私……」  入り口を見るとちょうど石田さんの姿が見えた。  間に合ったようだ。           ◇ ◇ ◇ ◇  私はわざとらしく 「石田さん! すごい偶然ですね。ご一緒しません?」 と大きな声で石田さんに向けて声を掛けた。  秋野さんを見ると青ざめている。  石田さんと何かあった?  だから辞表を出した?  いきなりそんな考えが次々思い浮かんだけれど、とにかく目の前の ミッションをこなさないとね。 「おじゃましてもいいのかなぁ~」 と、しらっと言いつつ石田さんが秋野さんの横に座った。  私はややお尻の位置を二人の間くらいにずらして会話した。  何か妙な感じ。  石田さんと秋野さんの表情が丸わかりなんだもの。  秋野さんは愛想笑いをしつつも、迷惑そうなのが見て取れた。  ここで私が彼女を置き去りにして席を立てば、泣いて縋ってきそうな雰囲気だ。  そう考えていると、思っていた以上の早急さで石田さんから『帰っていいよ』という合図が飛んできた。  いや、視線を受けただけなんだけど、分かったのよ。 「秋野さん、私、ごめん。急にお腹痛くなってきちゃって…… 申し訳ないけど帰るね」 「えーっ! いやそんな……。  じゃあ私、駅まででも見送ります」   12/6 '24.7.2
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