『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -

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20 w34 k3  この日から百子は以前から心にしたためていたことを早々と 実行することにした。  それは小説を書き始めるというものだった。  プロットはまだ何も考えられないので手始めに 自分のことを書くことに決めた。  本当はノンフィクションになるがフィクションに変換する。  ノンフィクションなんて、関係者にだけ分かることで世間はそれが ノンフィクションでもフィクションでも同じようなものだと思うから。  修行のような気持ちで始めた。  いきなりパソコンに打ち込むなんてできない。  鉛筆でチマチマとノートに書いていくことにする。    自分の身に起きたことを書くだけなので日記の感覚で スラスラと書いていく。  とにかく、書く。  書く練習を積む日々。  意識を書くことに向けるだけでも丸儲け。  そんな気持ちで百子は毎日机に向かった。  そしてその後百子が興信所を利用することはなかった。           ◇ ◇ ◇ ◇ ◇百合子の想い  石田と恋人関係になってもう2年……が過ぎ、もう少しすれば 丸3年になる。  彼は最初の頃と変わらずやさしいし、まめである。  自分と会っている時は家庭の話は一切せず、家庭の匂いを 出したことがない。  既婚者の恋人としては満点レベル。  時々、結婚しているのは何かの間違いで独身なんじゃないかと思うほど。  見た目だってとても40代には見えないほど若々しい。  自分に溺れている石田はいずれ妻と別れ、自分と結婚するだろうと 百合子は考えていた。  だが……彼が既婚者だと思い知るのはいつまで経っても 『結婚』の二文字が二人の間で出てこないこと。  奥さんより私のほうが好いのなら 『子供たちがもう少し大きくなったら結婚しよう。  待っててくれるね?』 くらいは言うもんじゃないだろうか。  だが彼は私と別れるとも言わないが結婚したいとも言わない。  やさしいけど酷い男。 9/7 '24.7.10
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