『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -

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22    w37 ◇石田伸之の気持ち  伊達百合子とのよろしくない関係というものは、彼女が自分に同行していた出張先で商談が上手く行き、夜は食事と共に飲んだ酒がつい深酒になり ほっと気を抜いた折にたまたまそうなってしまったという事故のような ものから始まった関係で、伸之としては元々彼女に手を出そうなんて 考えていたわけではなかった。 - 流れとして強引に関係を結んだわけでもなく……ただ彼女のほうが最初から自分と関係を持てたらという気持ちでいたのではないかと、彼女のその時の態度でチラホラ見え隠れしていたのをなんとなくではあるが分かっていた上でのことだった。-  その後も出張先だとか、二人での出先だとかで逢瀬を重ね、 そういう意味での ステディな関係になっていった。  夜を誘って妻から拒絶されたことはただの一度もなく百子は妻として 子らの母親として申し分のない伴侶と言えた。  しかし、子育て中のせわしなく忙しい妻に自分の気の向いた時にいつでも 相手をさせられようはずもなく、夜の店へ行くのに嫌悪感のある伸之にとって  百合子のように気軽に誘える存在は便利だった。  百合子は適齢期に差し掛かっているとはいえ、まだまだ若く、自分のような  既婚者の中年男に結婚を迫ったりもないだろう。  そしていずれは年相応の恋人ができ、自分の元を去っていくはず、 そう伸之は算段していた。  手放すのは百合子に結婚相手ができた時でいい、そう思った。  百合子を手放せば今後自分のように女性に対して不器用な人間に 妻以外の相手ができるとも思えないからだ。  妻とは身体の相性もよくこれまで不満などなかったので、百合子とこんな 関係を結ぶまでは妻以外の女とどうこうなど考えたこともなかったというのに……以外にも一度若い身体を覚えると妻の身体に以前ほどの興味を 持つことができなくなってしまった。  いつだったか『やっぱり若い女の身体はいいぞ』と誰かが言ってたのを 聞き、馬鹿かと思っていたが、どうやら自分もその辺にいる俗物な普通の男  だったのだと認めざるを得なかった。      
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