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「伸之さん、私からの申し出が……条件が整えば、判をつきましょう。
養育費、慰謝料など折り合いがつけば、ということで。
それと今すぐというわけにはいきません。
今から4~5年の内に、私の方の都合で離婚届けは出します。
あなたたちの子供が学校に上がるまでにはちゃんと間に合わせますので、
ご心配なく。
あぁ、今のは籍の上での話ですから、あちらと暮らすのはいつからでも
お好きな時になさってください。
これから子供が生まれるのだから、心配でしょうしね。
私、弁護士を立てますので以後、弁護士同士で話を進めていただきたいと
思います」
◇ ◇ ◇ ◇
いつ家を出るかなど、少しも頭の回っていなかった伸之は
『あちらと暮らすのはいつからでもお好きな時になさってください』
と言った妻の顔を改めて見てしまった。
冷たい眼差しの知らない女の顔に見え、すぐにでもお前など
出ていけと言われたような気がした。
「分かった、出来るだけのことはさせてもらうよ」
俺が言葉を言い終わるや否や、最後の言葉に被せんばかりの勢いで
百子が言い放った。
「あなたの子供二人を連れた私が、まだ産まれてもいない一人の子を連れた
伊達さんに負けたっていうこと、そのような状況の中での私の惨敗を
ずっと……ずっと忘れないでいてくださいね」
伸之は泣き喚いて非難したり子供たちを❧盾に同情を誘ってきたりしない
百子に、以外な方面から事の真実を詳らかにされ、愕然とした。
さらりと軽やかな口調で自分に申し渡してきた内実のなんという重さか。
伸之はここにきて、自分は百子を足蹴にしていること、愛する我が子と
その子らを慈しみ今日まで大切に育ててきてくれた妻を汚い足で踏みにじっているのだということに気付かされた。
冷や汗がドッと吹き出るのを感じた。
だが、それこそ今更だ。
浮気や不倫を許せる人間などほとんどいないだろう。
損得を横に置いて元の鞘に戻ったとしても、自分たちは元のような
仲睦まじい夫婦には戻れまい。
これでよかったのだ。
伸之は自分にそう言い聞かせた。
5/10 '24.7.22
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