『愛のため、さよならと言おう』- KAKKO(喝火) -

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42     w66  編集者、山下司に見いだされた石田百子の小説はなんだかんだで10か月後漫画本として1冊目が出版の運びとなる。  時は年を跨ぎ、新しい年を迎えようとしていた。  結局コミック本は4巻で完結という形になる。  その間の百子と山下との打ち合わせはそんなに多くはなかった。    打ち合わせでは数回会った程度で後は大したトラブルもなく、 メールでのやり取りで凌げたからだ。  そういう具合だったので当初ふたりが会ったのは春先の寒暖差のはげしいまだまだ寒さの残る頃で、最後の打ち合わせで会ったのはその翌々年の夏に向かう梅雨時だった。           ◇ ◇ ◇ ◇  寒さがまだまだ残る春先に百子の自宅を訪れた山下はフランクフルタークランツと呼ばれるドイツ菓子(ケーキ)を山下はホットコーヒーと共によばれることとなる。           ◇ ◇ ◇ ◇   「私と娘や息子はイオンスーパーマーケットの側の道ひとつ挟んで建っていた  ロッセェというケーキ屋の白いリングのケーキが大好きでよく食べていました。  そこのお店はイオンができる前から営業していた店舗なんですが ご多分に漏れず数年後スーパーに力負けして閉店してしまい食べたくても 食べられなくなっちゃって、いろいろレシピを探してよく似たケーキを 自分で作るようになったんですよ。  私が作ったへなちょこケーキですが1点ものですからお値打ち ですよぉ~ふふっ」  山下はそう言われ、少しずつ一口ずつ……味わって胃袋に流し込んだ。  バタークリームも生地もあっさりしていて食べやすく、美味しかった。  山下の母親はケーキなどと洒落たものを一度も作ったことがなかった為 山下は百子のことを殊の外すごいと思ってしまった。  次に来た時は何が出されるのだろうなどと、意地汚いことを思ったのだが 残念なことに次はメールで済むような用事しかなく、次の期待は儚く散っていったのだった。  
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