5. 日曜日

1/1
前へ
/8ページ
次へ

5. 日曜日

 日曜日の朝も母さんに起こされた。  驚きと戸惑いの表情に、まただと思った。    昨日と同じく、僕は机の上で寝ていたのだ。  しかも今朝はシャーペンを持ったままだった。  付箋には新しいメモ書きが残されていた。   『よかった もうすぐ ばいばい』  初めて書かれた、別れを示唆する内容が気になる。  僕も母さんもしばらく黙って、ミミズ文字を眺めていた。 「今日は父さんにも一緒に寝てもらったら? 夜中の様子を見てもらえたら私も安心よ」 「え」  夕飯を食べながら母さんが言った。本当は遠慮したかったけど、大人しく従っておく。  心配をかけている自覚はあるからだ。    父さんは呑気なもので、「何年ぶりかな」と機嫌良さそうに笑っていた。    今日は返事を書いておこうか。  付箋を前に悩んでいたら、父さんが来てしまった。 「お邪魔しまーす」  枕を抱えたまま、部屋の入り口で室内を見回しているのが鬱陶しい。   「あんまり見ないで。布団敷いといたよ」  ベッドの隣りを指さすと、父さんは明らかに眉を下げた。   「父さんが布団なのか? 今のお前に踏まれたら流石に痛いぞ」 「はあ? 起きる気あんの」 「はは。母さんと代わろうか」 「……ベッドで寝ていいから」  さすがに母さんと寝るのは気恥ずかしいというか気まずい。  白紙の付箋を机に置いたまま、僕は電気を消して布団に潜った。  衣擦れの音で、父さんがまだ起きてると分かる。  親の気配を感じながら寝るのは何年ぶりだろう。    僕が覚醒していると分かったのか、父さんは「やっぱりな」と話を切り出した。 「一緒に寝るの、母さんの方が良かったかもしれないぞ」 「今さら?」 「お前がまだ小さくて夜泣きしてた頃、父さん全然起きられなかったんだよ。母さん怒ってな」 「……やっぱ布団で寝てよ」  本当に父さんは役に立つんだろうか。    僕が小声だったせいか、父さんのスルースキルが高いだけか、寝る場所の入れ替えは叶わなかった。  というか父さんは一人で話し続けている。   「だから徹夜するってゲームしてたら『そうじゃない』ってそれも怒られてさあ」 「……おやすみ」  父さんに背中を向けて、頭まで布団を被った。 「最後まで聞けって。……父さん今夜こそ起きるからさ、まあ安心して眠れよ」  いや最後だけ言えばよかったじゃん。長い前フリ何だったの。  そう返したかったけど、眠気が一気に襲ってきて無理だった。  土日ゴロゴロしていたけど、寝不足は解消されていなかったんだ。  深夜、鋭い痛みを感じて一気に覚醒した。  お腹を抱えるように丸くなるけど何の慰めにもならない。  痛いと呻くたびに脂汗が身体中から吹き出してくる。 「蒼太しっかりしろ! 救急車呼んだからな!」  父さんが叫びながら背中をさする。体が揺れて痛みが増すからやめて欲しい。そう伝えたいのに言葉が出ない。  そのまま僕は、気を失ったようだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加