1. 火曜日

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1. 火曜日

 中学生活に慣れた頃の話だ。  自分の部屋でいつも通り目覚めた僕は、机の散らかりように昨夜の自分を恨んだ。部活で疲れていたからと心の中で言い訳する。    あくびをしながら、開いたままの教科書とノートを閉じた。その横にあった付箋を手に取る。昨日使った覚えはないのに、メモ書きが残っていた。 「何か書いたっけ」  弱々しくて細い線の、何度か手で擦ったら消えてしまいそうな頼りない文字だ。僕の字とは違う。    寝ぼけた頭で解読してみるけど上手くいかない。  目を凝らしてやっと読めた言葉に、僕はぎょっとした。 『ひさしぶり』と、一言だけ書いてあった。 「何これ怖っ」 「……誰も書いてない?」 「書いてねーよ。てかさすがに字汚すぎね?」  昼休みの教室で、例の付箋を何人かの友達に見せた。みんな心当たりが無いらしい。 「親も知らないんだよ」 「普通に蒼太が書いたんじゃね」 「はあ? 寝てたし」 「なんかあったそういうの。寝てる時歩くやつ」 「……夢遊病だ! ストレスが原因って書いてある」  友達の一人が、検索結果が表示された携帯の画面を見せた。  寝ている間に僕が書いているのなら、辻褄は合う。  でも―― 「久しぶりって書くかな」 「あんま会ってない人が、夢に出てきたとか?」 「うーん……」 「なら『誰?』って書いて寝れば?」 「それで会話できたらスゲー!」  みんな、付箋に書く返事の案を出し合い笑ってる。 ――他人事だと思って呑気だな。  僕はため息を吐いて付箋のメモ書きを見た。  やっぱり読みにくい。ミミズが這うような字ってこういうのを言うんだろうな。    ちょっとだけ好奇心が疼いた。会話できるならしてみたい。 「書いてみようかな」 「マジ?」 「気になってきた」 「ならさ、返事来たらまた見せろよ」  その言葉をきっかけに、「俺も俺も」と場が騒がしくなった。    僕も含め、みんな不思議な出来事を面白がっていた。  ……この時までは。
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