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自分がこんなにも無能な人間だとは思わなかった。早く家を出すぎてしまったせいで電車の中に閉じ込められてしまうなんて…天にも見放されたような気分だった。
もっと遅く家を出ていたら、電車に乗る前に遅延に気付いてタクシーやバスで向かっていたはずだ。そしたら…余裕で間に合っていたのに。
それでも……唯一、内定を貰えた会社を諦めたくはない。もう既にやらかしてしまっているが、まだきっとやり直せるはずだ。
とりあえず連絡をとってから、急いで会社へ向かおうとスマホを握り直した時だった。
着信画面に切り替わり、知らない番号からの着信が入った。普段なら絶対にワンコールなんかで出ることの無い知らない番号からの着信。
しかし、このタイミングでの連絡…もしかしたら会社からの連絡かもしれないっ、と迷うことなく着信を受けて耳元にスマホを押し当てる。
「はっ、はい…もしもし、」
緊張しながら電話先の相手に向かって話しかけてみると─…
『─…突然の連絡、失礼します。芳野 沙奈さん、の連絡先で間違いないですか?』
電話先の相手はどうやら男性みたいで、低音で…どこか優しさを含んだようなそのボイスは私の心を落ち着かせてくれる。
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