エピローグ 〜 パパ、あのね〜

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*****  娘の両手を、妻と二人で両側からしっかり握り、速度をあわせ並んで歩く。  来年小学校に上がるとは言え、娘の(さくら)はまだ幼い。  彼女は一人で出来ないこともまだまだ多いし、今の彼女には何も無い。何も無いが未来がある。  未来は最強だ。無限の可能性を秘めている。  そんな彼女の未来を護れたことは、素直に誇りに思う。  ── マズローの『欲求五段階説』 ── とはいえ、自分の欲求などは五段階どころか全て娘の桜に帰結する。  桜が元気で幸せならそれでいい。 ─ いや 桜に好かれたい。嫌われたくない。それだけか。 「ねぇ、パパ、パパ、パパ、パパ、パパ! 」 「何? どうしたの? 桜」 「あのね、あのね、あのね、あのね、今日ね、さくらね、パパにご本読んで欲しいの」 「勿論! いいよ。何読んでほしいの? 」 「あのね、あのね、あのね、あのね」  妻のまきが、慌てた顔で、桜の言葉を(さえぎ)ろうとする。 「あ! ちょっと待って! 桜! もしかして! ダメだよっ!! 」  桜はそんな事にはお構いなしで続ける。 「あのね、さくらね、今日は、岩佐志津子(いわさしづこ)ちゃんの『ぼっけいきょおてい』読んで欲しい!! 」  そう言って、嬉しそうに走り出した桜を 「あ! ちょっと! ダメよ! 桜! ちょっと、アナタも!! 」  慌てて追い掛けるまき。  自分に今出来る事を精一杯やる。  今夜も、自分は桜の横で、一生懸命に本を読んで聞かせる。 【デリシャス怪獣ヘドロゲン ─ 完】
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