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娘の両手を、妻と二人で両側からしっかり握り、速度をあわせ並んで歩く。
来年小学校に上がるとは言え、娘の桜はまだ幼い。
彼女は一人で出来ないこともまだまだ多いし、今の彼女には何も無い。何も無いが未来がある。
未来は最強だ。無限の可能性を秘めている。
そんな彼女の未来を護れたことは、素直に誇りに思う。
── マズローの『欲求五段階説』 ──
とはいえ、自分の欲求などは五段階どころか全て娘の桜に帰結する。
桜が元気で幸せならそれでいい。
─ いや
桜に好かれたい。嫌われたくない。それだけか。
「ねぇ、パパ、パパ、パパ、パパ、パパ! 」
「何? どうしたの? 桜」
「あのね、あのね、あのね、あのね、今日ね、さくらね、パパにご本読んで欲しいの」
「勿論! いいよ。何読んでほしいの? 」
「あのね、あのね、あのね、あのね」
妻のまきが、慌てた顔で、桜の言葉を遮ろうとする。
「あ! ちょっと待って! 桜! もしかして! ダメだよっ!! 」
桜はそんな事にはお構いなしで続ける。
「あのね、さくらね、今日は、岩佐志津子ちゃんの『ぼっけいきょおてい』読んで欲しい!! 」
そう言って、嬉しそうに走り出した桜を
「あ! ちょっと! ダメよ! 桜! ちょっと、アナタも!! 」
慌てて追い掛けるまき。
自分に今出来る事を精一杯やる。
今夜も、自分は桜の横で、一生懸命に本を読んで聞かせる。
【デリシャス怪獣ヘドロゲン ─ 完】
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