エピローグ 〜 パパ、あのね〜

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 新設されたポスト『副局長』には勿論、薬師丸さんが就いている。  優しい、お母さんのような葦原さんに対して、荒々しい口調の薬師丸さんは、コンプライアンスの目を()(くぐ)りながら副局長として組織の良きスパイスとなっている。  その薬師丸さんの(はか)らいで命までは取られなかった石黒総理は、事件の翌朝、パン一(ぱんいち)で国会議事堂の入口にもたれ掛かるように座り込み、気を失っている姿を登庁した野党議員に発見された。  首から『私は、つまらない利益のために国民を危険に晒そうとした売国奴です』というプラカードを掛けられたその姿は週刊誌にも掲載され、インターネットを通じて瞬く間に全世界へと拡散。  『同時多発立て篭もり事件』という適当な嘘もすぐに露見し、後出しジャンケンのように怪獣襲来の事実を発表した政府は信頼を失う事となり、石黒総理は引責辞任した。  ただ不祥事が注目を集め過ぎた結果、帝都の危機を救った人間のエピソードがクローズアップされる事はなかった。  どうやら英雄にはなり損ねたらしい。  そんな自分は今、愛する家族とともにオープンしたばかりの『東南海科学博物館』を訪れている。  エントランス前のピロティーでは、須田博士の写真と共に、見事に帝都を危機から救った『和天則』の上半身を模したレプリカが、コミカルな動きで来場者を出迎えている。
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