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二〇六二年 五月四日
━着任記録━
井田
本日、どうやら三十二歳の誕生日を迎える。
これまでの三十一回とは比べ物にならないほど、特別で、最低な誕生日になる事は間違いない。
自分が基地から携行した食糧は、転落の際に失ったので、食べられるものと言えば、ライフジャケットのポケットにある一口ほどのチョコレートのみ。
高橋のバックパックは無事であったので、高橋の食糧については、今のところ心配する必要はない。
但し、食料は三日分程度しか携行していなかったので、今日を含めてあと二日で何とか基地に戻らねばならない。
満身創痍の中、体力の消耗を避ける為、比較的平坦な場所を選び移動する事を選んだ。
しかし、それが完全に裏目に出たようで、茂みの中で方向を見失い、今自分がどこを歩いているかすら判別できない。
落ちたところを素直に登れば、容易に帰路も判別できたかもしれないのに、自分の選択が完全に誤っていたのだ。
若い高橋に不安を与える事がないように、努めて気丈に振る舞い、何事も無いかのように歩みを進めているのだが、内心ではこの先の事を思い、不安で気が狂いそうだ。
当然、食料の件も伝えていない為、昨日の昼から何も口にはしていない。
飲料水は清水を濾過、煮沸して確保しているが、いかんせん食べなければ体が保たない。
どうにか早い段階で食糧調達の目処をつけねばならない。
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