ニ〇六二年 五月七日

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ニ〇六二年 五月七日

━着任記録━      井田  体力の限界を迎え、やむを得ず高橋の食糧を少しいただく事にした。  その為、既に食糧は底をついてしまっている。  現状を打破する為には、一両日中にここを抜け出し基地に帰還するか、食糧を現地調達するしかない。  体調の優れない高橋を置いて、一人原生林の中を駆け回る。  不快な生物は沢山いるのに、食べられそうなものは一向に見当たらない。  これも例の危険生物がいる為だろうか。  一日中歩き回ったが、これといった収穫もなく高橋の待つ場所へ戻る事にした。    先輩として、高橋に申し訳ないという思いと、このような事態を招いた高橋の不注意を責める気持ちが綯交(ないま)ぜになり、心底遣る瀬無い。  気持ちと連動して体もいつになく重く、判断力も落ちていると思われる。  復路を違わぬように、往路をしっかりと確認してきたつもりだったが、森には魔物がいる。  どういう訳か戻る事ができなくなってしまった。  そうこうする内に、ポッカリと木の生えていない拓けた場所に出た。  低木や背の高い雑草も殆ど生えていない。要は原っぱだ。  確かこの島には人が住んでいないはずだ。  原生林の中にこんな場所があるとは思ってもみなかった。  逢魔時(おうまがとき)。視界も覚束(おぼつか)なくなりつつある中、自分のいる場所から丁度反対側、原っぱと原生林の境目の辺りに、植物の緑とは異なった、汚れた深い緑が見てとれた。
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