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一縷ノ願ヒ
地獄に犍陀多という大泥棒がいた。
彼は深く真っ暗な地獄の世界で何度も針山に括りつけられては悶絶し、火達磨にされて苦しみ悶えては息を吹き返すのだった。
指や手を刻むように切断されたとて、それは幻のようなものにしか過ぎず、痛みや不安や恐怖といった感覚だけが残り、気を失って起きるとまた拷問を受ける。
それが彼らの、地獄に落ちた者の仕事だった。
犍陀多が何をしたかと言うと、彼は略奪の限りを行い、その目的のために人を殺し、放火などの罪を何度も行った。
その結果、地獄でその行いの分の責苦を受ける羽目になった。それは犍陀多にとって実に不本意なものだった。
どう不本意だったのか言うと・・・・地獄に来たばかりの犍陀多はよくこう叫んでいた。
「俺は悪くない!生きるためには仕方なかった!貧しい世の中にした奴らが悪い!なのにどうして俺が、罰を受けなきゃならんのだ!」
こんな風に叫ぶのは何も犍陀多だけではない、大抵地獄に来たばかりの元気のいい罪人たちは皆同じようなことを叫ぶ。
「俺は悪くない!あいつが裏切ったから、俺は殺したんだ!」
「盗まなきゃ、俺が死んじまうんだ!飢え死にするほうが正しかったとでも言うのか!」
彼らは皆、口々に文句を連ねる。
やがてそれらは長い地獄の拷問の果てに、話す言葉も叫ぶ気力すら失う。
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