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一緒に
桃子は、ようやくこの機会が来たと、その日家に帰ってから実家に電話を架けた。
「ねぇ、明日の休日、さくら先輩にお料理を教わることになったの。」
母親は驚いて
「まぁ、そんなあなた。大丈夫なの?大森さんの親御さんにはまだ何も言っていないのよ。」
「だって、私、桜先輩といるとすごく楽しいの。お母さんにも、すごく感謝しているし、お母さんの事も大好きよ。でも、さくら先輩と会っていると安心感って言うか、何かそういう気持ちがものすごく湧いてくるの。」
「わかったわ。お母さんから大森さんには電話しておく。でも、本当の事はまだ言ってはだめよ。大森さんにきちんと伝えてからにして頂戴ね。」
「うん。わかってる。さくら先輩を悲しませようとか、そんなこと思っていないし。ただ、お料理教えてくれるって言うし、それって本当にあるべき姿だったかもしれないでしょ?」
そんな会話があった翌日。
『ピンポー~ン』
さくらの住むオートロックのマンションに桃子が訪ねてきた。
さくらに頼まれた、足りない食材を買って。
「いらっしゃい。今あけるからどうぞ~。」
さくらの住むマンションはさすが一人暮らしで16年間大手の会社に勤めているだけある、一生住めそうなマンションだった。外観も綺麗だし、エントランスもついて、高級感がある。
部屋に入ると明るいリビングに面した綺麗なキッチンがあり、エプロンをしたさくらが迎えてくれた。
桃子も早速持って来たエプロンをかけ、二人で並んでキッチンにたつ。
桃子も基本的な野菜の切り方などは自分の母親から教わっていたので、メニューを決め、メニューに合った切り方と味付けを教わった。
お弁当なのでさくらも桃子も好きな卵焼きは二人の好みの甘い卵焼き。
桃子の家では父親が出し巻が好きだったので作ったことがなかった。
さくらは小さくフフッと笑うと、卵を三つボールに割った。
「お砂糖は『えぇ?』って思うかもしれないけど、卵一つに大匙一杯。多いと思うでしょうけど、私が作っているのはいつもこの量なのよ。」
そう言いながら大匙3杯の砂糖を卵の入ったボールに入れて、切るように混ぜ始めた。
玉子焼き用のフライパンに多めの油を熱し5mmほどに卵を流す。
固まってきたら手前から向こう側にクルクルと卵を集めて巻く。
キッチンペーパーに油を含ませ、卵を持ち上げながら卵との下からフライパン全体に油を敷きなおす。
それを何度か繰り返すとふんわりとした卵焼きが出来上がった。
キッチンペーパーを敷いたまな板にその卵焼きをポンとひっくり返して出すと、キッチンペーパーで形を整えて冷ます。
卵焼きをする前にオーブントースターにセットしておいたブロッコリーとソーセージを出して、お弁当箱に詰める。
更に、お弁当箱にご飯を詰めて、冷ましながら飲み物のお茶をポットに入れる。
昨日作ってあった煮物をレンジで温め、冷ましているブロッコリーの隣に入れる。これは、煮汁がこぼれないように一度キッチンペーパーに包みきゅっと軽く絞ってある。
そして、万が一汁が洩れたときでも大丈夫なようにご飯の隣に詰めた。
そうこうしているうちに卵焼きもさめて、キッチンペーパーを外すと形も整っている。
食べやすい厚さに切って、お弁当箱に詰める。
その頃にはおかずもさめているので仕上げのプチトマトを入れる。
洗ってヘタがついたままお弁当箱に入れようとした桃子に
「あぁ、ちょっと待って、ヘタもとってその下の水分もとってね。」
なんでも、水分がついていると、そこから悪くなることがあるそうだ。
いかにも普通だが、なんどでも食べられそうなお弁当ができた。
煮物の作り方は、レシピを貰ったので、桃子は家で試してみることにした。
できたお弁当を、二人共、お昼ご飯として食べる。
「「いただきま~す」」
「一緒に食べると美味しいわ。いつも休日は一人だから張り合いがなくて。」
「さくら先輩さえよければいつでも一緒に食べますよ。」
「そういえば、桃子ちゃんってかわいい名前よね。3月生まれかしら?」
「えぇ。そうなんです。桃の花の咲くころだったから桃子。ってお母さんがつけたそうです。」
「そうなの・・・」
さくらは少し寂し気に微笑んで遠い目をした。
そんなさくらを桃子は何か問いたげに見つめる。
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