第一部 弐 安政の大獄

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さっきの闇は何だったんだ、そう思うくらいに希望に満ち、覚悟した男の目があった。 この人ならやれるんじゃないか。この人なら、そんな大層なことでもやり遂げられるに違いない。そう思わせる何かが男にはあった。 私は最後の力を振り絞っていった。 「やってやろうじゃないの!」 「そうかい!俺の名は御子柴春海!」 「私は…春川梅華!」 これが、男、御子柴春海(みこしばはるみ)との出会いだった。 「梅華…、とりあえず出血量は多くねえからな。」 そう言うとひょいとおぶられた。煙管と香の混じった匂いだった。 蝶よ花よと育てられた自覚のある私にとって新鮮だった。 「しっかし・・・、お前さん、あれだろ。春川っつったら、雅秋の娘っ子だろ?」 なんで知っているんだろう。雅秋こと春川雅秋は私の父上だ。 「なんで…父上を知ってるの?」 「簡単なこって。明倫館の同期だぜ?」 「え…。そんな年なの…?」 「ばーか。俺は特待で早めに入ってんの。」 「あー人って見かけによらないよね。」 「おい、俺のこと思っただろ。」 ・・・そんな軽口を叩いて。 私の家に入っていく。 朝になってどうやら、梅太は帰ってきてバレなかったようだが、私は血まみれで、しかも変な忍び装束の男に抱えられている。 ・・・当たり前だけど大騒ぎになった。 「お、お嬢様!そのお怪我は!」 「雅秋様!お嬢様がご帰宅なさいました!」 「はやく!お湯を持ってきなさい!」 今回は私が悪い。されるがままに手当を受けた。 ちょっとどこなく痛い。 手当が終わると、父上の部屋から大声が聞こえてきた。 「よ!雅秋イ!娘っ子、ちょっと借りる!」 「・・・オイイイイ!何が娘っ子借りるだよ!!」 いつも厳格な父上を怒らせ。 でも、なんとか言いくるめたみたいで、春海は笑っているのかは分からないが、のんびりと私に向かって手招きをする。 「ま、親父さんに許可もらったことだし。行くか。」
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