第一部 弐 安政の大獄

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夜中になると、弟が起きる気配があった。 「姉上!姉上!行きますよ。」 そう言うと私の腕をつかんで廊下を忍び足で歩き、家を脱出する。 「ふう。なんとか脱出できましたね。」 「そうね。心臓に悪いわ。」 父上のいびきとか、母上の寝返りの音に怯えながらの脱出は心臓に悪い。 しばらく人のいない道を歩いていると、人が一人、コソコソと歩いている。 「盗人…ではありませんね。」 「どっちかって言うと、見たことない?あの背丈。」 その男は、同じ武家の家で家の近い高杉小忠太の倅。 高杉晋作に間違いなかった。 「晋作!久しいな!」 梅太郎が大声で前を歩く晋作に話しかけると、肩をビクッとさせながら晋作は振り向いた。 「なんじゃ、梅太じゃないか。」 そう言うとタッタッタとこちらへ走ってくる。 「お前は松陰先生のところへか?」 梅太郎が聞くと、 「ああ。梅太も今日からだったな。梅華さんは付き添いか?」 「ええ。弟を父上から守れるのは私だけです。」 「梅華さんを襲うやつの気がしれん・・・。」 「姉上はお強いですよね!」 よくわからない言葉が飛んできたので一応晋作にげんこつを一つ落としておく。幼い頃からお互いを知っているからこれくらいは許される。 「痛いぞ!梅華さん!」 「その他人行儀やめてくれる?さん付けはやめて。様か呼び捨てか。」 究極の二択を突きつけられた晋作の返事は早かった。 「梅華!梅太!行くぞ!」
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