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聖なる祝いの前夜を目前にして。
クリスマスの妖精の夫婦、サンタータとトナカは、ちょっとしたいざこざを起こしていた。
十二月二十四日の夜に、たがいが二段式オーブンの上下、どちらに寝ることにするか。もしも希望が被ってしまったなら、どちらを優先すべきか。
と、こういった話し合いが難航しているのだ。
————要は、ベッドの位置の取り合いである。
「———この家の奥さんは、上の段でジューシーなチキンを焼こうとしてるんだよ。」
ほんのり熱の籠った赤いオーラをわたあめのように纏い、夫のサンタータは主張する。
「だから僕は絶対、ハーブと野菜と一緒に蒸し焼きにされたあの香しい鶏の匂いに包まれながら眠るんだ。」
穏やかながらも断固とした口調で言うサンタータに、奥さんのトナカも真正面から言い返す。
「ここの家の旦那様は、下の段でラベンダーケーキを焼くのが恒例です。あなたも知っているでしょうが、私はバラの香以外の花は苦手です。にんじんケーキとかなら私が譲歩しましたが……今回ばかりはダメです。上の段は私が取らせていただきます。」
むん、と腕を組んで、茶色の粉砂糖をふわふわ蒔いたようなオーラを纏うトナカはサンタータを睨みつけた。
丁寧口調ではあるが、そのオーラの奥には研ぎ澄まされた刃の光が見え隠れ。
思わずたじたじとなるサンタータだったが、彼も負けてはいない。
「僕は一年間、チキンの香りのベッドを楽しみに生きているんだ。それを取り上げるとは、きみはなんという薄情者だ。」
「むっ?」
「きみが譲ってくれ。僕の幸せを奪ってくれるな!」
「ちょっとお待ちなさい。私の幸せはどうなるのです?ラベンダーケーキの香りのベッドでは、せっかくのクリスマスの夜に眠れないではありませんか!譲るのはあなたです、この薄情者!」
「なんだって?!」
「私は事実を言ったまで!」
「こちらもそうだ!」
「あなたは感情論で動いています!」
「それを言ったらきみも同じだろう!」
「何ですって……っ?悪魔!」
「言うにことかき悪魔だと!ああもう、言わせておけばっ!」
売り言葉に買い言葉。
あわやオーブンの天板を投げ合いの喧嘩に発展しようとした、その時だった。
————ドオン!
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