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「今日物理の時クラスメイトと仲良くした?」
「ごめ…んなさい……」
「正直でよろしい、でもちょっと遅かったかな」
慈は喋りながら俺から離れていき、ドアの鍵を閉め、カーテンも閉めた。完璧な閉鎖空間だ。
「千紘、いつまでそこ突っ立ってんの。はやく準備しなよ」
「うぁ」
「ああ、準備って言ってもすること思いつかないか」
「……めぐみ」
急に呼ばれて驚いたのか、慈はぱっと振り向き、こっちへ歩いてきた。
「どした?」
「ふく…ぬがしてくんないの」
「おま……スイッチ入ったな」
「なんのすいっち?」
「いや…なんでも」
慈は慣れていた。俺のシャツをめくったその下にあるたくさんの傷を見ても驚いたり心配したりしなかった。いちいち心配されるとこっちも面倒くさいのだ。この傷ができた時のことなどもう忘れてしまいたい。親がいたこと含めて全部…。
「千紘、いい子だね。大丈夫だよ。」
俺はもしかしたら頭の片隅で親が失踪した時のことを思い出していたのかもしれない。無意識だった。慈はそれに気づいたのだろう。俺が、親に一番言ってほしかった言葉。一番してほしかったこと。
慈は最初から全て知っていた。俺はただ、いい子だね、と言ってほしかった。学校でうまくいったこと、悲しかったこと、それから嬉しかったこと。それらに対して何でもいいから何かリアクションをしてほしかったのだ。
慈がそっと抱きしめてきた。自分の頬が濡れているのを感じた。
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