第3話

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第3話

 毎日、慣れない肉体労働ばかりで身体がかなり疲れるので昨夜は不安から家中の明かりを点けていたにのにすぐに寝付き、由起子に電話で起されることもなかったので朝までぐっすり眠った。  目が覚めると窓からの光が点けたままの照明より部屋の中を明るくするようになっていてまだ4時半だったがベッドで身体を起こし、いつものようにニュースを読もうとスマートフォンを手に取った。  それを手に取るとすぐに昨日の録画の事が気になったが後で落ち着いてから観る事にして30分位ニュースを読んだ後、ベッドから出ると洗面所へ向かいながら通りかかる窓のカーテンを順番に開けていく。  栗原はふと、毎朝見ているその景色に違和感を持った。  通り過ぎていた窓へ戻ってもう1度確認すると作業小屋の前に見たことの無い大きな四角いものがあり、その見た目は以前、粘土を採取したあの場所の地層に似ていた。 「え、なんだろう?」思わず声に出すと、玄関から小走りでそれを確認しに行く。  近くでみると粘土を採取した場所の斜面と似ている土のようだが1辺が1.5メートル位の四角い立方体の形で積まれている、と言うより粘土の地層を切り取ってそのまま置いたと表現するのが正しい状況だった。 「粘土がどうして?」「何故、地層ごと?」「一体どこから?」「誰がここに?」  そう呟きながらその四角い粘土の周りを何度も回っているうちに昨日、広場で遭ったウエットスーツの人達が何か関係しているに違いないと思えてきた。  栗原はポケットの中にあったスマートフォンを取り出し、録画データを再生する。  前の部分を早送りして茂みへ到着した所から再生すると、残りの10秒間に黒いウエットスーツを着た人が通り過ぎる映像があった。  3倍速の早口で話す声も録音されていて、それがスピーカーから小さく聞こえていたが茂みの向こうを数人横切ったあたりから画面が揺れ出し、落ち着きのない映像になって録画は終わった。  その映像を見れば恐怖が蘇ると思っていたが、不思議と怖さみたいなものは感じなかった。  理由はないが録画された映像を見て作業小屋の前に置かれた粘土がウエットスーツの人達と関係しているかも知れないという思いは確信に変わり、今すぐ広場へ行って粘土の地層が切り取られているかを確認してみたい衝動に駆られていた。  だが、地層のまま切り取られたという不自然なものを誰かに見られると面倒な事になる気がした栗原は先ず、作業小屋からスコップを取り出してその形を崩していった。  その後、洗面所に行って急いで歯を磨くとデイパックを背負って山の広場へ向かう。  5時半を過ぎたので様々な鳥が鳴き出し、空は昼間のように明るさを増していたが林の中の小道はまだ少し暗かった。  今日はあの不思議な人達を想像してもあまりドキドキせず、もし会えるのならあの地層ごと切り取った粘土について聞いてみたい気持ちで一杯だった。  早く確認したいと思っていたからか、かなりのスピードで登ったらしく30分程で広場へ続く茂みの道が見えてきた。  そこからはあまり音を立てないように静かに歩き、茂みの道の入り口まで行くとそっと広場を覗いてみる。  茂みの道から見えるのは広場の一部だけだったが、ここで会った奇妙な人達と自宅で見た地層ごと切り取られた粘土が昨夜の夢かと思ってしまうくらい平和な朝の景色がそこにあった。  しばらく茂みの入り口から覗いていると、どこからか昨日と同じ3倍速再生のような声が聞こえ始めその直後、栗原が見つめている茂みの道の先をあの黒いウエットスーツを着た人が歩いて通り過ぎた。  急いでスマートフォンを取り出して録画を始めると、1度通り過ぎた黒いウエットスーツを着た人がそのまま後ろへ下がるようにして再び現れた。  こちらを見ずにまっすぐ前を向いたまま後退してきたその人は栗原が録画しているその画面の中央で立ち止まる。  1、2秒そのままじっとした後、ゆっくり首を捻ってこちらに顔を向けた。  画面ではなく直接見ていた栗原はその人と目が合って一瞬ギクッとしたがその表情には何の感情もなく、その目は何も語っていないように見える。  何の意志も読み取れないその目に見つめられて栗原は動くことも声を出すことも、瞬きすら出来なかったが不思議なことに怖さはなかった。  黙ったままじっと見つめ返していると、その人は大きな目で1度瞬きをした後、再び前進して栗原の視界から消えた。  おそらく10秒にも満たない短い出来事だったがそれがとても長く感じ、その間息を止めていたのか苦しくなって大きく息を吐き出すと栗原は我に返った。  自分はどうすべきか迷っていると茂みの先をウエットスーツ姿の人が左右から横切り始め、3倍速再生のような会話もあちこちから聞こえるようになったが緊張感のようなものは全く感じられない。  栗原を襲ってくるどころか、何かするのに忙しくてこちらを構っている暇がないように見える。  しばらくそこで左右から現れる人を録画していたが、急に誰も現れなくなり、同時に早口の会話も聞こえなくなった。  栗原は茂みの道を恐る恐る広場の方へ近づいていく。  近づくにつれ視界は広がっていくがその範囲にずっと人影はなく、最後は広場へ顔だけ出して左右を確認したがそこにはもう誰もいない。  何事もなかったように静まり返った広場へ出て、自分が夢でも見ていたように感じた栗原は手にしていたスマートフォンの録画した映像を再生してみる。  すると、最初に目が合った人が栗原を見て瞬きするのとその後、同じような姿の人が何度も横切るのが確かに映っていた。  実際に見たのと同様に録画の中の表情にも感情を感じられず、栗原はそれが意図的なのかどうか気になって何度も再生してみたが、こちらには興味がないようだという事が判っただけだった。  何が何だか分からないまま立ち尽くす栗原はふと、粘土の地層が切り取られているかどうかを確認しにここへ来たのを思い出した。  早速、粘土を採取した崖のような斜面へ行ってみると思った通り部分的に大きく削られた、というより切り取られたようになっていて先日とは明らかに違っている。 「やっぱりここから運んだものだったんだ…」四角く窪んだ地面を見ながらそう呟くと背中の方から例の早口の会話が聞こえてきた。  振り返ると広場の片隅には飛行船のような形をしたUFOがこちらに後部の羽をみせ、下に飛び出た4つの脚と共に着陸していて、3倍速再生のような何語か分からない言葉はその方向から聞こえてくる。  UFOの大きさは全長が30メートル位で飛行船なら人が乗るゴンドラと呼ばれる部分が下に突起しているがそれはなく、ボディー全体が鏡のように磨かれて周りの景色をそのまま写していた。  栗原がその水銀のように光る滑らかな輝きに魅せられていると突然、UFOの下面からボディーと同じ色をした2メートル程の立方体がエレベーターのように降下してきて地面から50センチの所で止まる。  その後、立方体からスロープのようなものが伸びてきて地面と繋がると、10人程のウエットスーツを着た宇宙人が両手で真っ白い箱を抱えて降りてきた。  50メートル位離れた粘土の斜面から見ている栗原をその内の数人がチラッと見たが、何の関心も示さずに広場の真ん中あたりに向かって1列に並んで歩いて行く。  広場の中央の地面に先日は無かった直径3メートル位の穴が開いていて、手に持った白い箱を順番にそこへ投げ込むと再び1列に並んでUFOの中へ戻っていった。  その後、再び白い箱を抱えて出てくると同じ事を繰り返す。  どうやら白い箱を地面の穴に捨てて焼却しているようで、箱を投げ込む度に3メートル位の炎が舞い上がっていた。  10往復くらいするともう焼却する箱が無くなったのか3倍速再生みたいな言葉で打ち合わせをするように話し合ってから、UFOの中に姿を消してしまった。  全員が中に入るとスロープが縮んだ後、立方体は上昇してボディーに収まり、辺りは何事もなかったように静まり返る。  栗原はしばらくそのUFOを見つめていたが、そのまま何も起こらないので彼らが何を捨てていたのか気になり始めた。  広場の中央に開けられた穴を覗いてみようと見当をつけた場所に行ってみたが何もなく、それがどこにあったのかと辺りをウロウロしている内にいつの間にかUFOもどこかへ消えていた。 「あの宇宙人達はどこから来て、どこへ行ったんだろう…」  栗原は広場の上に浮かぶ、先ほど見たUFOのような形の雲を見ながら呟いた。  ウエットスーツを着た奇妙な人達との2度目の出会いはUFOから出てきた彼らが黙々と仕事をする姿だったから、栗原が彼らに対して抱いていた『不気味で奇妙な人』という印象は『真面目な宇宙人』に変わっていた。  しかし、彼らが怖くなくなった一方で宇宙人との出会いが余りに呆気なく終わってしまった不満のようなものが栗原の心には残っていた。  こちらが危害を加えないとも限らないのにチラッと見ただけで自分達の仕事に取り掛かり、それを済ませるとさっさと何処かへ消えてしまった。  危害を加えられずに済んで良かったのかも知れないがまるで自分が無視されたように感じ、宇宙人との出会いという現実離れした出来事の割に何も起きずに終わってしまった物足りなさが心に残っていたのだった。  そしてそれ以上に、彼らの作業をただ傍観するだけで切り取られた粘土の地層について訊ねることが出来たかも知れないその機会を逃してしまった自分の不甲斐なさに腹が立っていた。  少し肩を落としながら自宅に辿り着いた栗原は庭にある粘土の山を見つめながら今日、目撃した宇宙人のことを島の住民は知っているのだろうかと思い、もし知らないなら自分はどう話せばいいのかと思った。  時計の針が1時を指した頃、昨日譲り受けた軽トラックの代金を横井へ届ける為に栗原は島の外周道路を左回りに走っていた。  栗原が今、向かっているのは『横井農園』で島の反対側にあるらしく車でも15分程掛かるようだ。  横井の自宅は島の外周道路から左折して300メートル程走ったその農園内にあり、曲がる場所さえ間違えなければ道に迷ってしまうような所ではなかった。  左折する場所には『東登山道入口』の文字が彫られた目立つ標識があると聞いていたので、栗原は地図も確認せずに車を走らせた。  東登山道は文字通り、島の中央にある山へ東側から登る道らしく栗原の自宅側にある登山道が『西登山道』だからほぼ反対側に位置していると想像出来た。  家を出て15分程走ると、『東登山道入口』の文字がある高さ3メートル程の目立つ標識が目に入る。  直径が2メートルはありそうな木の幹を半分に割り、赤い文字を浮き彫りにしたその標識の所で左にハンドルを切ると上り坂の道路となり、ほどなく両側に緑色のみかんの実をつけた木が立ち並ぶ景色になった。  そのまま進むと右手に大きな文字で『横井農園』と書かれた鉄製のアーチを見つけた栗原はそれを潜り、土になった細い道路を進むと農家によくある大きな家が見えてくる。  家の手前に見覚えのある紫色のワンボックスを見つけ、そこで車を止めると陰から妻の弘子が出てきた。  栗原に気付くと、 「あら、ごくろうさま」小さくお辞儀をして笑顔を見せた。  栗原は運転席の窓を下ろし、 「こんにちは、昨日はありがとうございました。車の代金をお持ちしました」と笑顔で頭を下げると弘子は、 「今、お父さんを呼んでくるから…」昨日とは打って変わって親し気に言い、自宅へ駆け込むと「お父さーん! 昨日の軽トラの人がいらしたわよー」大きな声で武史を呼んだ。  履きかけた黒い長靴の片方を引きずるようにしながら玄関から出てきた武史は栗原を見ると被っていた農作業用のキャップを取り、笑顔になった。 「まあ、お茶でも飲んでったらいい…」栗原が乗る軽トラの所まで来るとドアを開けてそう促す。 「遅くなって申し訳ありません。もっと早く伺おうと思っていたんですが…」栗原が済まなそうに言って頭に手をやると 「朝は畑に出ちゃうから今頃で良かったんだよ。今さっき、戻ったばかりだ。さあ、どうぞ上がってください」武史は左腕を伸ばして自宅の大きな玄関を示した。 「では、お言葉に甘えてお邪魔します」促されるまま家に上がると客間のような広い和室へ通された。 「縁側に座るといい。そこが一番風通しがいいから…」武史が縁側を指差しながら言うので栗原がそこへ座ると、お茶と饅頭を盆に乗せた弘子がやって来る。 「どうぞ、若い人の口に合うかしら?」  弘子は微笑みながら遠慮がちに差し出した。 「あ、美味しそうなお饅頭!」栗原がそう言うと弘子は小さく笑いながら隣の座敷に行って座った。  そのまま縁側の武史へ向き直った栗原は1度頭を下げてから封筒を取り出し、 「早速ですが代金の方、ここにお持ちしました」と両手で丁寧に差し出した。  その封筒を武史が受け取るとすぐに栗原は、 「間違いがないかご確認ください」と両手を差し出したまま言う。 「じゃあ…」武史はそう言うと右手の親指を舐め、1枚ずつゆっくり10まで数えた後、「確かに頂きました」と現金を封筒と重ねて拝むようにした。  その後、出された饅頭を食べながら、栗原は自己紹介を兼ねて東京での仕事や残してきた妻の事を話した。  話の流れで陶芸に使えそうな粘土を山で見つけた事も話した栗原は思い切ってウエットスーツを着た人達について訊いてみることにした。 「粘土を見つけたのは山にある広場みたいな所なんですが…、そこで変わった格好をした人を見かけたんです」そう切り出すと、 「あぁー、黒い人のことだね。山の頂上の方でしょう?」武史が何かを知っているように頷ずきながら答えた。 「ご存じなんですか?」栗原が驚きながら武史の顔を見つめる。 「昔から山には天狗が住むと言われていてね…」そう話し、「黒っぽい人間みたいな…、でしょ?」と、意味ありげな表情をした。  その答えを全く想像していなかった栗原が言葉に詰まると、 「それはカラス天狗だ。昔から住んでいて、実際に見た人も何人かいるんだよ」笑いながら話し、隣の座敷に座る弘子の方を見る。  すると、すぐに弘子が真面目な顔で 「私達が子供の頃は天狗に捕まっちゃうと言って、暗くなったら山へは絶対に行かなかったんです」と言い、「でも、その天狗は悪いものではなくて山の守り神なんですよ」話し終えると目を細めた。 「あんた、天狗をみたんだよ。今でもまだいるんだねー」武史は感心するように言うと、手にしていた茶をすすった。  横井夫妻の話を聞いた栗原はあのウエットスーツを着た宇宙人が昔からこの島に来ていて、あの広場で何かしていた事を知った。  しかし、島の人は彼らをカラス天狗と称し、説明のしようがない現実を伝説として受け止めているのなら、わざわさよそ者の自分がそれは宇宙人だと知らしめる必要はないと思い、 「狸が狐に化かされたのかと思いましたが、守り神なら良かった…」笑いながらそう言って話を終わらせた。  その後、みかんの育て方や農園の歴史、妻の弘子の実家の話などを聞いて横井の家を後にした。  自宅まで反対の道順で戻るとすでに4時を過ぎていた。  テーブルに置かれたタブレットのテレビ電話に妻からの着信履歴があるのに気付き、その時間を確認すると3時24分となっている。  仕事中のそんな時間に何があったのかと由紀子のスマートフォンへ掛けてみるとすぐに繋がり、 「はい」と、自宅の寝室を背景に暗い声で応答する由紀子が映し出された。 「留守にしていたんだけど、何かあったの?」栗原が訊くと、 「今日は何だか仕事に行く気がしなくて…、会社を休んだの…」相変わらず元気のない顔で途切れ途切れに答えた。 「とても具合が悪そうだけど、大丈夫かい?」栗原が心配になってそう言うと、 「もう、精神的に疲れちゃって…。でも、辰則の声を聞いたら少し元気が出てきたわ。今日一日、ゆっくり休んだら明日からまた頑張れそうな気がする」と言い、徐々に声にも張りが戻ってきた。 「そっちはどう? 問題ない?」  久しぶりに島のことを訊いてきたので山で会った宇宙人の事を話したかったが、精神的に疲れている時にする話ではないと思い、軽トラックを手に入れたことを伝えて電話を終えた。  栗原は他人には言えない宇宙人との出遭いを妻の由紀子にも話すことが出来ずモヤモヤしたままだったが実際、信じてもらえるのかどうかも分からないから仕方がないと思う事にした。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇   次の朝、6時過ぎにベッドから起きあがった栗原が洗面所へ向かいながらいつものように通り掛かる窓のカーテンを開けていくと昨日の粘土の山の隣に新たな四角い粘土の地層が置かれているのが見える。  新たに置かれた地層の所まで行くと栗原はそれを見て、あのウエットスーツを着た人達が運んできたに違いないと思っていた。  なんでそう思っているのか自分でもよくわからないが、地層ごと切り取って運ぶという離れ業が出来るのは山の守り神でもあるカラス天狗の他にいないと思ったからだろう。  栗原は急いで歯を磨くと昨日と同じように四角い地層の粘土をスコップで自然な形に見えるように崩してから山の広場へ向かった。 「よーし、今日こそは絶対に確認してやる!」山を見上げながら気合を入れると、力強い足取りで登山道を登り始める。  30分程で到着し、そのまま茂みの道を進んで広場へ出ると昨日見たのと同じUFOが着陸していた。  栗原は迷わずそこへ近づいて昨日、ボディーの一部がエレベーターのように降りてきた辺りを見てみるがそれらしきものははどこにも見当たらず、継ぎ目も何もない。  どうしようかと少し考えたが、UFOが相手では答えが出る筈もないのでとりあえず、ドアをノックするようにしてボディーの適当な場所を叩いてみる。  すると、鉄だと思っていたそのボディーはプラスチックの衣装ケースを叩いたような音をコンコンと鈍く響かせ、硬くも冷たくもない不思議な素材で出来ていた。 「すみません、誰かいませんか?」栗原が声を掛けるとすぐに音もなくエレベーターが降下し、スロープが伸びてきたがそれが突然降りてきたことに驚いて横へ逃げた栗原からは中が見えない。  しばらく見ていたが何も起きないのでエレベーターの正面へ移動して中を覗くと、1メートル程奥まった所で直径20センチ位の白いゴム毬が縦横に隙間なく並び、開口部を塞いでいた。  内部を覗く事が出来ずにただ、ゴム毬の壁を不思議そうに見ていると、プニュッ、プニュッとそこから生まれるようにして3人の宇宙人が出てきた。  ウエットスーツ姿の宇宙人は横に並んで栗原をじっと見つめた後、 「※RקΔ%ΓΘ÷ΠΦΨ〇θΩζ+γωЖЭ=&◎」と、真ん中にいた一番背の低い人が3倍速再生のような声で何かを言った。  まるでSF映画のワンシーンのようだったがとても現実味があり、とにかく何を言っているのか知りたかった栗原は 「え?」と、手の平を上に向けたジェスチャーでわからないことを示す。  すると、先ほどより遅いスピードで、 「ナカデカ」と言ったが、それでも聞き取れない程の早口だった。 「まだ、早口すぎるのかな? そのスピードでもわかりません」日本語が通じないと思った栗原はジェスチャーで理解してもらおうと頭を傾げる。  同じ宇宙人が今度は、 「ナニカ、ヨウデスカ?」と、かなりの早口だがようやく聞き取れる早さで言った。  日本語が話せると判った栗原はハッキリ聞こえるようにと口を大きく動かしながら、 「あなた達が粘土をその地層ごと私の自宅に運んでくれたんですか?」そう言うと粘土が切り取られた斜面を指差した。  今度は左側にいる身長が140センチ位の宇宙人が 「アナタガ昨日、ココヘ粘土ヲ採リ二来タノニ、我々ガ邪魔ヲシテシマッタ様デシタノデ、カワリニ採取シテ運ンデ置キマシタ。ゴ迷惑ヲオ掛ケシマシタ」と、ぎこちないが礼儀正しい日本語でそう答え、洋ナシを逆さまにした形の顔にある2つの大きな目で2度瞬きをした。  現実離れした信じられない体験をしながらも栗原は落ち着いていた。  それは、3人の宇宙人が感情を持っていないと感じる一方、常に冷静な人達だと思えたからで、そんな彼らがいきなり危害を加えるような事はしないだろうと考えたからだった。
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