彼女について

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  二 彼女は、買い物が苦手だ。 どうやら、他人と接触することにひどくストレスを感じるようだ。 レジ、外食、そういう一瞬の他人との対話が、嫌で、買い物をすることができない。 何故か聞いたら、「確認してくれ、とか言われたくない」という話だ。 マニュアルだとわかっていても、もしかしたら、自分にだけ言っているのかもしれない。 そう考えるだけで、人と接するのが嫌になるのだそうだ。 そして、情報量が多すぎて、処理しきれないのだと言う。 わたしにとっては、当たり前に感じられる情報環境が、他人にとっては、ひどくストレスになると、どうして想像がつくだろうか。 買い物はまさに、情報の宝庫である。 更に言うなら、選択肢が多すぎてしまい、疲れてしまう。 それが、人よりも多い、強く感じるのが、彼女なのだ。 だから、彼女は、例えばスーパーで、たくさんの人に囲まれながら、大根を一本選び出すのも、大変な作業なのだ。彼女の脳の動きはこうだ。 こわい、圧迫感がある、大根に似たものがある、他にも見たくなってきた、いろいろ買いたい、あれ、いま何を買おうとしたんだっけ。 あ、人とぶつかった。また、よけないと。人の居ないところへ行こう。 お菓子がある場所は人が少ない、このお菓子子供のころよく食べた。たくさん買おう。そうだ、のりと牛乳も買わなきゃいけない。 チョコレート売り場の隣にのりがある。のりはかごに入った。etc このように、彼女は様々な情報に影響を受けて、目的を達成できない。 目的が達成できない、ということは、イコール失敗をした、という経験の積み重ねになってしまう。 そういった面からも、彼女にとって、買い物での成功体験を生み出せる環境をまず、探してゆくことが適切なように思う。 現代は、ネットスーパーの普及から、商品を全部ネット上で買えるようになった。 商品選びは、小さな画面の中だけで済む。 その上、個数も金額も明瞭に表示され、購買が済んだら、自宅までの配達を待つだけである。 彼女にとって、エキサイティングだった買い物が、コンパクトな隙間時間で終わる作業に変わった。 このことは、彼女にとってストレスの軽減へは繋がっているようだが、多少のエキサイティングの中に、ストレスの発散もある、という奇妙な二重性を持って、今も彼女の中に混在した矛盾として生きている。 買い物は実際、目的を達成させることが大切だが、その途中、つまり、先ほどのお菓子売り場のように、多少の寄り道があることにより、解消される面も持っている。 そう考えると、理想的な買い物とは何なのだろうか? こればかりは、障害の有無に関わらず、考えさせらるものがありそうだ。 便利さと、娯楽は同居し得るだろうか。 作業の効率化により、助かる部分のほうが多くあるのも事実だが、彼女は正直に言うと、「ネットで買うのは、楽だけど退屈だ」と、思っているらしい。 本人にとって、より良いサービスや支援の提供を。 これを踏まえた上で、彼女を一人の人間として考えたとき、彼女と同じように考える人はたくさんいることだろう。 それは、決して変わったことでもなんでもないだろう。
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