夫せんべい

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夫せんべい

 私は夫が大好きだ。ご飯を食べている夫、お風呂上がりのほかほかに仕上がった夫、仕事帰りのくたびれた顔の夫、休日のだらけた夫、夫の匂い、夫の温もり、夫の全てが大好きだ。  ある日、寝床で夫と横並びで寝ていたら、夫の手を踏みつけてしまった。 「痛っ」 「あ、ごめん! 痛かったよね。私重いから手がおせんべいみたくなっちゃうよね」  私はその言葉を発した時、ふとこんな事を思いついた。  夫をイカせんべいみたくして食べたら、美味しいんじゃないだろうか? って。  私は夫より身長も体重もある大女だ。夫は背が低くて、筋肉質だけども細身で。  私なら、夫をイカせんべいみたく出来るんじゃないだろうか。夫をプレスして、薄っぺらにする事が出来るんじゃないかって思ったの。  だからね、私は寝息を立て始めた夫にそっとのしかかったの。 「ううっ!?」  夫が呻き声をあげる。でも、すぐに声は聞こえなくなった。だってもう、私の身体が夫を押し潰し始めていたんだもの。  ばきいっグチャッどぅるん  ばきいっグチャッどぅるん  どんどん夫が潰れていく。  良い感じ。このままなら夫をおせんべいにする事が出来る。イカせんべいならぬ夫せんべいね。あなたの味は、きっと素晴らしく美味しいわよね。 しばらくプレスしたら、夫はぺったんこになった。 「うふふ、良い感じ♡ これだけあれば一カ月はあなたを堪能できるかしら?」  でも、生のままなのよね。私は鉄板じゃないから、プレスは出来ても加熱は出来ないの。  どうしよう、生のままじゃ食べられない……。  その時時、床が目に入った。お布団の下は畳だ。  畳に火を付けたら、燻した感じで美味しくなるんじゃないかしら?  だから、私は畳に火を付けた。  火はお布団に燃え移って、あなたが段々焼けていく。 「ん~、お肉が焼けるいい匂い♡」  あなたが焼ける匂いに幸せを感じていた。でも、どうした事か私も熱くなって来たし、呼吸が苦しくなって来た。 「げふんげふんっ。何で私までこんなに熱いのよ!?」  薄れて行く意識の中で、私はこれだけを考えていた。 「どうしよう。このままじゃ夫を食べられない───」 ────了
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