ピテカントロプスの揺り籠

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 私、広瀬 佳代子の人生は順風満帆だった。比較的裕福な家で育ち、友人や恋人にも恵まれ、国立大学を卒業後、医薬品卸売会社の販売担当者としてキャリアを積んで行った。  そんな私に影がさしたのは30歳の誕生日に付き合っていた彼と別れてからだ。その日、私は友人達が次々と結婚していくのに堪えられず、自分から彼に結婚を迫った。 「別に結婚しなくても良くない?今は事実婚とか珍しくないよ」 「子供が出来たらどうするの?」 「俺、子供嫌いだから作らなくていいよ」  交友関係が広く多趣味の彼は未だに大人に成りきれていない所がある、夢を語っては転職を繰り返し最近では起業したいなどと言っている。結婚を意識する前はそんな彼の自由で行動的な所に惹かれていたのに今はそれが歯がゆい。  結婚は例えるなら同じ船に乗って旅をするようなものだ。私は子供が欲しかった、だから目的地の違う彼とは夫婦にはなれないと思った。
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