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「はぁ」
とめどなく溜息が溢れ出した。チラッと医局の中を見てみるが三人の男性医師は未だにおしゃべりをしている。
(早くどっかに行ってくれないかしら)
睨みたいわけじゃないのに、どうしても男性のことを睨んでしまう。怖くて。
ふぅ〜と生ぬるく緩い風。耳元に当たる不快感。高校生時代、華は何度も痴漢にあっていた。
思い出しただけでも身体の震えが止まらなくなる。そのせいで大人になった今もどうしても男性が苦手なのだ。最初から男性だと分かっていて対応するのと、突然の接触とじゃ心構えが全く違うからか、怖くて触れられるとつい睨んでしまう。それに高嶺の花と呼ばれた華は男の子と接する機会も元から少なく、どう対応していいのか未だに難しくて分からないのだ。
(唯一私と仲良くしてくれた男の子ももういないし)
華はそっと首から下げているチェーンに触れた。
「尊臣くん……」
小学生時代の幼馴染の高地尊臣(こうちたかおみ)。小学生時代から美人で一目置かれていた華と唯一仲良くしてくれた幼馴染の男の子だ。同い年なのにしっかりとしていて兄のような存在の尊臣は真っ直ぐで芯の強い漆黒の瞳をしていた。
華は首から下げているチェーンを手繰り寄せ、ペンダント部分を手のひらに乗せる。
ハートが半分に割られたペンダントは小学生の頃に流行ったデザインのペアネックレス。華の持っている半分のペンダントともう片方を持っている尊臣のペンダントを重ねると一つのハートになるらしい。尊臣がアメリカに引っ越す時に華にくれたものだ。最初はなんの形だろう? と不思議に思ったが母に聞くとハートのペアネックレスだということが判明した。渡してくれた時になにか尊臣が言っていたが華は別れが悲しく泣きすぎてうまく聞き取れなかったのだ。
「また会えたらいいな」
唯一の仲の良かった友達に。華はボソリと呟き、ネックレスを服の中にしまった。その瞬間、華の身体が後ろから誰かに抱きしめられた。
「やっぱり、すぐに見つけられた。華」
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