気づいた本当の自分の気持ち

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「患者さんはっ!?」  廊下で看護師と合流し、状況をもう一度把握する。 「305号室の高橋さんですが既に呼吸が浅いです」 「そう……ご家族に連絡したほうがよさそうね」 「そうですね……」  何年医者をやっていてもこの瞬間とは辛いものだ。二十二歳という若さで乳がんを発症した高橋は癌を発見するタイミングが遅れたことにより、癌だと診断されたときにはかなり進んでいた。若いとなおさら進行は早く、華も一生懸命に治療法を考え、一緒に戦ってきたが、ついにこのときが来てしまったのだ。  死亡診断書を書く手が細かく震える。 「助けてあげたかったのにっ……」  父親の癌がきっかけで医者を目指し、男性恐怖症ながらにも耐えて頑張ってきたのは癌の患者さんを一人でも多く助けたいから。もちろん残念な結果になってしまったことは何度もある。そのたびに華は心を痛めていた。もちろん医者が毎回心を痛めていたら自分の精神がおかしくなってしまうことがあることも分かっているけれど、華にはどうしても堪難く、いつも一人で泣いて、気持ちを落ち着かせていた。  今日も震える手を握りしめながら、華は誰も居ない備品庫に電気もつけず、息を潜める。 「ふっ……うぅ……ふっ……」  ひっそりとしゃがみ込み、両手口元を抑え込んで声を押し殺す。 「やっぱり。泣いてると思った」  ほんの少し、明かりが差し込んだと思ったらすぐに真っ暗になった。それでも声だけで分かってしまう。尊臣だ。  近づいてくる気配に華は涙を急いで手の甲で拭い、顔を上げる。 「華ってば、やっぱり泣き虫なんだなぁ。なんも変わってない、華のまんまだ」 「なんで、ここ、に?」  暗闇に目が慣れて、目を細めて優しく微笑んでいる尊臣の顔が薄っすら見えた。華は泣いていて、鼻が詰まった声を出す。
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