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(は、華って名前で呼んだ!?)
華はぎょっと目を見開き、尊臣くんごめんなさい、と思いながら皆んなの華のイメージ通り、クールにフンッと尊臣を無視してまた歩き出す。
これはマズイ展開かもしれない。尊臣に名前を呼ばれても冷静な顔をしていたが内心ものすごく焦っていた。あんな尊臣狙いの女性が集まっている所で自分の名前を呼ばれた時の周りからの視線。まるで注射針でチクチク刺されているかのような痛い視線は今までにも何度か経験したことがある。
お前、美人だからって調子のんなよ、の視線だ。
怖い、怖い、怖い。男も女も別の怖さを持っている。華にはそれが経験上よく分かってしまっていた。
スタスタ、スタスタ。だんだんと歩くスピードが上がっていく。
「華っ、ちょっと待ってよ」
パシンと腕を捕まれ、華の足がピタリと止まった。
「っ! びょ、病院では名前で呼ばないでください」
「あ、悪い。つい昔の癖で。そうだよな、職場だし名字のほうがいいよな」
「腕……離してください」
華は掴まれた腕に視線を向けると尊臣は「ごめん」とすぐに腕を離した。
「日本に戻ってきたばっかりで知り合いもいないし、桜庭先生に色々教えてもらいたくてさ。いい?」
下を向いていた華の顔を覗き込むように尊臣は身体を少し屈めた。華も決して身長は低くないほうだ。百六十五センチあるので女性にしたらまぁまぁ高い方だと思う。それでも尊臣には低いようで覗き込まれた尊臣の瞳は真っ直ぐで艷やかに煌めいて見えた。
「……分かったから。あんまり見ないで」
華は輝く瞳からパッと目を反らす。高嶺の花と呼ばれ続けてしまった華はボッチを極めていたため、人気者の輝いている瞳は華には眩しすぎた。
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