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「は……じゃなくて桜庭さん、今夜なんだけど――」
「高地先生〜〜〜っ」
尊臣の声を遮るように甲高い声が華の背中に突き刺さる。ふと声の方を見ると、外科で看護師をしている早見亜香里(はやみあかり)がパタパタとで小走りでこちらに向かってきていた。ミディアムヘアーを揺らしながら、小柄な亜香里は少し頬を赤く染めている。
「もぉっ、高地先生って背が高いから足も速いんですね〜。先生今日の夜ってお暇ですか? 今日先生の歓迎会を開こうって話になりまして、どうですか?」
きゅるんと可愛らしく上目遣いで尊臣を見る。華には亜香里の後ろに狙った獲物は逃さないとチーターが見えたような気がした。
「あ〜、そんな俺に気を使わないでください」
丁寧に断る尊臣に亜香里は畳み掛ける。
「今日は夜勤のひと以外は参加できるみたいなんですよ。ね、先生いいですよね? 皆先生との距離を縮めたいんですよ」
「そ、そうなんですね。うん、じゃあ、わざわざありがとうございます」
「わ〜よかった。……桜庭先生は、来ますか?」
亜香里はその場に居た華のことも一応誘っておくか、と言うようなトーンで聞いてきた。
「私は遠慮しておくわ。皆で楽しんできてください」
「ですよね! 桜庭先生は飲み会とかめったに参加されないですもんね。本当美人で高嶺の花って感じで憧れちゃいますぅ」
パチンと両手を合わせて笑顔を見せる亜香里に華は雰囲気を壊さないように必死で口角を上げた。
「じゃあ、場所と時間が決まり次第またお伝えしますね!」
また、パタパタと小走りで去っていく亜香里を見て、華も歩き出した。
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