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以前私が使っていたマグカップに、コーヒーを入れてくれた。こまちを床に下ろしてあげて、私はかつての定位置に座った。
「別に。猫にも会いたかったし」
「ふうん」
図星だけど、落ち込んでいるわけでもないし、逆にスッキリしている。
「お母さんの肉じゃが食べたくなったんだよね」
「もう。肉じゃがくらい自分で作れるようになりなさいよ」
「お母さんが作ったのがいいんだよ」
「やだね〜、口ばっかり上手になっちゃって」
憎まれ口を叩きながらも、母の表情は優しかった。ホットコーヒーが身体を芯から温めてくれて、心までほぐされていく。
「実家って落ち着くね」
「そう思うんなら、もっとマメに帰ってきなさい」
母の小言さえも懐かしくて胸に沁みる。こまちも「ニャオン」と鳴きながら、私の足元で頭をスリスリしている。
香凜と神垣くんから解放されるように、私は地元を離れた。
「こまちもいるし、また来るよ」
どこかで香凜に会いそうで、なんとなく足が遠のいていた。でも、もう平気だ。私は大丈夫。
久しぶりに食べた母の肉じゃがは、ご飯がもりもり進んだ。おいしい食事に実家のにおい、そしてかわいいこまちに癒されて、私はフル充電完了した。
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