咲耶です。バンドはじめました

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「私たち、絶対諦めないっす!」  そのとき、ネムがいきなりギターをジャンジャカジャンと掻き鳴らした。 「ちょっ、しーっ! 迷惑だから!」  コンガ先生は焦ったが、ネムのギターを聞いたシャオランが何かに目覚める。 「なるほどっ! 実際に演奏を聞いてもらって、納得させよう作戦だねっ! よーし、私も頑張るっ!」  そして力いっぱいドラムを叩き始めた。 「よーし、ふたりがその気なら……」  咲耶は大きく息を吸い込んだ。 「会場のみんなー! 盛り上が」  そのとき、目にも止まらぬ速さでコンガ先生の手刀が炸裂する。咲耶たちは全員気を失ってしまった。 「はぁ……これでなんとか……」 「すみません」  息つく間もなく、控え室の扉が開く。コンガ先生はまた目にも止まらぬ速さで咲耶たちを部屋の隅へ隠した。 「なんかありました?」  物音を聞きつけた男性店員が店長(コンガ先生)の顔を心配そうに覗き込む。 「え、何が?」  店長(コンガ先生)は悟られないように必死に平然を装ったが、男性店員は「いやいや」と手を振った。 「ものすごい音しましたよ?」 「いやあの、その……」 「ああ! まさか!」  何かを感じ取った男性店員。  すかさず店長(コンガ先生)に近付いた。 「敵ですか?」  補足しておくと、この店員も忍者である。 「違うの、ほんとごめん」  店長(コンガ先生)は頭を下げる。 「ええ? 違うんですか? だとしたらなんですか、あの音」 「ええと……」  そのとき、山積みされた段ボールが店長(コンガ先生)の目に入った。 「ああ! そうそう! 商品の整理してたら手が滑って段ボール落としちゃったんだよねー。そのときの音かなぁ? ほんとごめんねー」  棒読みオブ棒読み。しかし、男性店員はそんなことには気にも留めず、段ボールに書かれた商品名を見て、ため息を漏らした。 「ハバネロ抹茶プリンですか……」  店長(コンガ先生)も残念そうに首を垂れている。 「全く大赤字だよな……今月発売されたのに、だーれも買わないんだもん……あ、そうだ」  そのとき、店長(コンガ先生)は思い出した。 「安田くん、ちょっと確認したいことが」 「すみませーん」 「はーい! 今行きますー!」  お客さんに呼ばれた男性店員、もといバイトの安田は爽やかに消えていった。 「ああ……許可証の件、聞きそびれちゃったな……」  店長(コンガ先生)は頭を抱えた。
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