1/2
前へ
/6ページ
次へ

 2022年11月。  お昼の休み時間、俺は校舎裏に呼び出された。  校舎の裏と聞くと集団で暴行を加えられるんじゃない?って心配する人も居るだろうけど、今回の案件はそんな物騒なものじゃない。  そもそもそんな事が行われていたのは、前時代のドラマの中くらいだろうね。  俺の高校の校舎はA棟とB棟が二階の渡り廊下で繋がっていて、そこから少しだけ離れたところに旧棟が建っているんだけど、この旧棟自体はもう使われてない。  壊してしまえばいいんだろうけど、解体作業にも膨大なお金がかかるんだよとクラスメイトの高橋が言っていた。あいつはそういった事にやけに詳しいんだよな、親が不動産関係とか言ってたっけ?  そんなわけで、旧棟は体育祭や文化祭で使う大道具なんかの倉庫代わりに使われているだけなだから、人の出入りなんて殆どない。あるケースを除いてだけどね。  そんな旧棟の校舎裏に僕は今向かっている。  校舎の角を曲がると陽が陰って昼間なのに少し肌寒い。 「うー寒い」  身を縮こませて奥まで歩いていくと、一人の女の子がそこに立っていた。いや、待っていた。  倉科智菜(くらしなちな)  彼女は俺と同じクラスで、三か月くらい前から何となく気になっている子だ。  きっかけは彼女が鞄に付けていたアクスタなんだけど。  珠里航一(たまりこういち)って知ってるかな?タマコーの愛称で知られてる、結構有名な男性アーティストなんだけど、彼の全盛期ってのが両親の若い頃だから、二十数年前くらい?  うちの両親はドライブに出掛けると最低一回は彼のベストアルバムをフルで聴くから、いつの間にか俺も好きになったんだけど、同級生でタマコーの話しが出来るやつには会ったことがない。  まぁ俺らの世代からしたら何となく聞いたことがあるオジサンだし、音楽番組の昭和平成レトロ特集で聞くぐらいだろうからね。  その珠里航一のファンが高校二年になって初めて現れたのだ、それも同じクラスの女子だよ、ちょっとテンション上がるよね。  なんでファンって分るかって?  彼女がつけてたアクスタはタマコーのドームツアーグッズで、高身長の彼をパロディーにしたボウリングのピンのデザインなんだ。そんなものを身につけている人はファンしかいないでしょ? 「ねえ、倉科さんそれってさ」  女子に声を掛けるのは少し勇気がいったけど、勢いに任せてつい声を掛けちゃったってわけ、それ以来俺らは共通の話題で通じ合ったんだ。  って言っても、実習で教室を移動する時とか、たまたま廊下ですれ違った時に少し話す位なんだけどね。  因みに、この旧棟はうちの学校の生徒が”告る”ために使う定番の場所になっていて、旧棟に呼び出されるイコール告白ってわけ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加