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「瀬戸君…」
モジモジして下を向きながら俺の名前を呼ぶ倉科さんは、いつもの活発な雰囲気と違ってこっちもつられて息が浅くなる。
わかっていたけど改めて近くで見る倉科さんは、結構ガタイがいい。
女子だし、身長百七十三センチの俺より背も小さいから、ガタイが良いと言ったって知れてるんだけど、それでも女子としては小さくはない方だと思う。
あっガタイが良いっていうのはコンプラに引っ掛かるかな?鍛えられた筋肉質のカラダって言おう。
中学からずっと柔道部だからだろうね。確か初段で黒帯とか。
倉科さんはクラスの中でも明るい方だし、友達も多いと思う。
けど。
一軍じゃない。せいぜいが六番手くらい。
俺と同じだ。
明るいといっても、よく言う太陽のように気が付くと皆の注目を浴びているみたいな感じじゃなくて「あ~あのよく笑ってる子ね」位のもんだ。咄嗟に名前が出てこない程度の印象。
頑張ってる柔道だって試合のレギュラーにアクシデントがあって、ようやく代役を検討されるくらいの強さ、弱くはないけど凄く強いわけでもない。
でも本人は凄く努力家だから、それでも諦めないで地道に練習を続けてるんだ。引き締まった筋肉質のカラダと小指のテーピングがその証拠だね。
俺もそうって言いたい…けど、ちょっと違う。
性格は…まぁ普通かな?ほんとに普通。暗くも明るくもないしお喋りでも無口でもない、友達もそこそこいるし、嫌いな奴もいる。
勝手に俺よりランクが下だと思う奴らを見下してるし、一軍の連中には気後れもする。
運動神経も中の上くらいだから所属してるバドミントン部でも、レギュラーになれる程の実力もない。倉科さんと同じように、誰かが怪我でもしないと試合の候補にも上がらないくらいのもん。
ただ彼女と違うのは俺が卑怯な奴ってとこだ。
一か月、いやもうちょっと前からかな?彼女が俺に気があるんじゃないかって思い始めたんだ。
お前の妄想だろって言われるかもだけど、ほら、そういうのって何となく分るじゃん。
そりゃ俺だって勘違いだと思ったけど、気が付くと俺を見てるし決定的だったのは彼女の親友の牧野さんが俺のとこに来て「瀬戸さー分ってんだろ、告ってやれよ」って言ってきたんだよ。
なっ間違いないだろ?でも俺は自分からは好きとか言わなかった。ホントに自分が倉科さんのことを好きなのか分からないし、告白して振られたらスゲーカッコ悪いじゃん。
結局何をしたのかっていうと「何気なく気がありますよ、俺もあなたが好きですよっ」て雰囲気を出して、彼女からの告白を待ったってわけ。
なっ卑怯な奴だろ。
「うん、俺も好き、付き合ってみる?」
何だかモテる奴っぽい感じで、返事をしてLINEを交換した。
いざ自分に彼女が出来たってなるとスゲー嬉しいのな。
(やった、彼女が出来たぜ)
お互いまだ気恥ずかしいからさ、倉科さんは先に教室に戻ったんだ。
その後から俺が戻ったんだけど、教室に入った時に牧野さんが俺のこと睨んでたんだよね。何だあれ?上手く行ったのに訳わかんねー。
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