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「あ、千代子ちゃん」
出た。今会いたくないランキング一位の男。
「久しぶり。じゃあね」
「久々に会ったのに、それは酷すぎないかな?」
その男は苦笑いして話を続けようとする。でも私は一分一秒もこの男と話をしたくない。
「何か用? 私と一緒にいると恥ずかしいんでしょ?」
「だから、それは誤解だってば。君って本当に人の話を聞かないんだから」
「じゃあどういう意味だったの? 『君の隣にいると僕は恥ずかしくなる』なんて。私あれからお肌がツルツルになったのよ?」
「それはいいことなんじゃない?」
「あなたにふさわしい女になろうと思って自分磨きをしている途中だったのよ。このタイミングで会いたくなかったわ」
「僕のために色々とありがとう。でももうそれはしなくてもいいよ」
しなくてもいいですって? 何て酷い男なの。
「まあ、そんなに私のことが嫌いなの? そりゃそうよね。隣にいると恥ずかしいんだものね」
「だから誤解だ。僕が君といると恥ずかしくなるんだ」
「やっぱり恥ずかしいんじゃない!」
彼は「あー、違う違う」と言いながら頭を右に左にぐるんぐるん動かす。どうでもいいけど頭そんなに動かして気分悪くならないのかしら。
「だから、君がこれ以上綺麗になったら、ますます恥ずかしくなるんだよ!」
「まあ、私みたいな女が綺麗になるなんて身の程知らずと言いたいの?」
「だー、違う! 君が綺麗になったら、隣に立つ僕が恥ずかしいんだ!」
「やっばり恥ずかしいんじゃ……」
「いや、なんでそっちになるんだよ! 僕だって君に相応しくなりたいんだよ!」
「……?」
「いや、何でわからないの! 僕も君のことが好きなんだ!」
小原くんの言葉を繰り返してみる。『僕も君のことが好き』って言った?
「小原くんは、私のことが好きということ?」
「そういうことだよ」
「じゃあ、私たち両思いということ?」
「そういうことだよ」
「そっかあ……。でも一緒にいるのが恥ずかしいなら私たち一緒にはいられないの?」
「いや、正直まだ恥ずかしいけど……。恥ずかしいことよりも君が隣にいないことの方が嫌だって気づいたんだ」
わがままな人。でも正直な人。
「わかったわ。でも自分磨きは続けるわよ。だってそれは、あなたにもっと好きになってもらいたいから」
「僕も、君にもっと好きになってもらいたい。だから」
彼が右手を差し出す。
「今から恋人としてよろしく」
「望むところだわ」
私は彼の手をとった。
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