桜婚

　「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」
と詠んだ小野小町の気持ちを、学年一の美女と謳われた高校生の頃のようには馬鹿にできなくなってきた。
　アラサーの忙しない朝に、メイクは必須だ。閉じたビューラーを開けると、くるんとまつ毛が曲がった。
　拡大鏡に映る大きな目と睨めっこして何年もたつが、未だに満点といえるメイクはできていない。

　このメイクも、今日に限ってはすぐに落とす。じきにプロに直してもらうのだが、プロの元へ行くまでの間もすっぴんでいられない私の無力な抵抗だった。

　できる限りの抵抗はしてみるものの、努力すればするほど、人は老いには勝てないことを知る。それでも、納得はいかないものはいかない。少しでもこの若さを記録しておきたい。

　今日の仕事は、転んでもただでは起きない私が、ネットを駆使して探してきたものだった。