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五月。
暖かい日和で過ごしやすいが、眠たくもなる。世間は近づくゴールデンウィークに色めき立って、やれ友だちや彼氏と夢の国やら、やれ帰省やら、テレビをもジャックする勢いで騒いでいるが、私には特に予定がなかった。
そんな折に、一本の電話がかかってくるまでは。
知らない番号だった。普段なら出ないのだが、先日、キャップにヒビの入ったリップにあたってしまい、返品、新品交換を受けてもらっている最中だったので、その連絡だったらいけないと思ったのだ。
「もしもし」
私が出るやいなや、名乗りもせず「ゴールデンウィークあいてる?」と尋ねるその声に、私は電話を切ろうとした。その気配に慌てた相手は、「待って待って」と、名前を告げた。ウエディングフォトの新郎役だった。
「あのスタジオに、来てほしいんだけど。仕事じゃないからさ」
少し強ばった声色で彼は言った。今更の連絡に、先日の件でまたややこしいことになっているのでは、と感じた私は、気分が重たくなった。
しかし、借り物を返さないといけない。私は渋々了承した。
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