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彼に連れられて、ゆっくりと私は川沿いを歩いた。私の歩調に合わせて、彼は足場に目を配りながら、安全を確保してくれる。私も慣れない履き物が怖くて、足下ばかりみてしまう。引っ張ってくれる彼の手が頼りだ。
「どういうこと?」
よくやく私は彼に尋ねた。
「ウエディングフォト、できなかったから」
「あなたのせいじゃない」
つい責めるような口調になってしまう。しまった、思っていたより尖った声が自分の口から出た。しかし、彼は黙って頷いて、
「そうだね」
と答えた。
「全部おれが悪い。だから、埋め合わせをさせてもらいたくて」
「あっさり認めるのね」
「認めるよ」
殊勝に彼は頷く。
何か事情があったと思うのだが、彼はその話はしなかった。
川沿いにピクニックに来ていたらしい小学生の女の子と母親が、「わぁ、新婚さんだ」と私たちをみてはしゃいだ。私の顔が熱くなるのを感じる。
「あなたは嫌じゃないの。こんなに目立つの」
「べつに。ドレス、似合ってるし」
そういう問題じゃないでしょ。
そう思うのに、少し口がにやけてしまう。
やはり憧れのウエディングドレスを褒められるのは、素直に嬉しい。しかし、それ以外にも、何かが心をくすぐっているような感じがした。
「埋め直しと言ったって、桜はもうないじゃない」
「あるよ」
彼の足が止まった。あわせて私も足を止め、下ばかりみていた顔をあげた。
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