桜婚

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 一晩中降っていたらしい雨は、朝にはあがっていた。  目覚めて窓を開けると、空気中の汚れも洗い流されたように、澄んだ空気が風にのって部屋に入ってくる。深呼吸してそれを吸い込むと、昨日のことはそこまで怒ることじゃなかったかのような気がしてきた。  昨日は疲れのあまりそのまま寝てしまったが、少しでも借り物を傷めないように、今からでも折りたたみ傘の水気を軽く拭き取り、乾燥させる。  借りたはいいものの、連絡先がわからない。  私はもう連絡することがないと思っていたスタジオの店長に電話した。  店長は私からの電話に驚き、彼の連絡先を教えてほしい旨を聞くと、警戒心を露わにした。  事情を話すと理解はしてくれたが、勝手に個人情報を教えるわけにはいかないから、私の連絡先を彼に教えてもよければ、彼から連絡させると対応してくれた。  店長は最後に、「くれぐれも、喧嘩しないように」と釘を刺すのも忘れなかった。昨日の私の様子だと言われても仕方なかったので、苦笑するしかない。  私は電話に気づけるように、マナーモードをオフにして待っていたが、その日、桜ソングの着信音が鳴ることはなかった。
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