23人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ……翔ちゃん。」
その日の深夜。
光流が翔の家に泊まるときは、いつも二人で明け方近くまで他愛もない話で盛り上がる。
ずっと一緒に育ってきたとは言え、現在の会社まで同じというわけではない。
お互いの仕事に関する気苦労や愚痴などを話しているうちに、そういえばあの頃は……と言った話にまで発展し、気がつくと空が明るくなっている。
話すことは尽きない二人。
「ん?」
「私達ってさ、いつもこうやって一緒にいてさ、良く飽きないよね~。」
「あぁ……確かに。」
幼馴染みが他人になるタイミングというのがあるらしい。
それは、中学生頃のいわゆる『思春期』。
異性の違いをしっかりと理解し、男女で行動や考えなども変わってくるこの時期が、いちばん幼馴染みと言う関係に悩む時期であると言う。
服装や体格が変わってきても、翔と光流の関係は変わらなかった。
光流自身が少しずつ女性らしく、美しく成長していくことに翔は少し戸惑ったが、光流の性格がすぐにそんな戸惑いを打ち消したのだ。
「私もだいぶいい身体になってきたでしょー?見る?」
「み、みねーし!!」
「こんなに近くにこんなにいい女がいるなんてねぇ。ラッキーだねぇ、翔ちゃん。」
「う、うるせー!お前なんて姉弟くらいにしか思ってねーし!」
当時、光流は翔が恥ずかしがったり照れたりするであろう話題を、自ら積極的に翔に話したのだ。
お互いに照れて話さなくなる、それだけは嫌だったから。
結果、何でも包み隠さず話す光流に、翔は安心感を得るようになった。
「なんだ……普通他人に話せない恥ずかしいことだって普通に話すんだし、普通の家族みたいじゃないか。」
それからと言うもの、翔と光流の間にあった『微妙な空気』が完全に無くなったのである。
「お前がさ、あの頃……」
「あの頃?いつの話?」
「何でもない。普通の女子が恥ずかしがって話さないようなことを普通に話してたからな、その時、俺も余計に意識するのはやめようと思ったんだ。」
「……意識してくれてもいいのに。」
「意識したら、こうやって泊まりとか来させない。」
「……じゃぁ、意識しなくていいや。でも……少しは興味あるんじゃない?私の……身体とか?」
光流が、翔をからかう。
このやり取りも、かれこれ10年近く続いている。
「……そりゃぁ、ある。」
「……え?」
しかし、今回の翔の返答はこれまでと違った。
さすがの光流も、顔を真っ赤にする。
「……なんてな。いつもからかわれてるから、仕返しだ。」
「あ、あんたねぇ……!」
そして二人、笑い合う。
翔と光流の関係、そして絆。
それは翔の姉が殺されたあのときからずっと強く繋がっているのである。
最初のコメントを投稿しよう!