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第1話B:終わりの始まり。
あの日。
父の異常な行動を知ってしまった。
中学1年の、秋。
父は、親としては可もなく不可もなく、会社員としては優秀な男だった。
40代で課長になってからは、会社内でも頼られ、その人柄から多くの部下に慕われた。
マイホームのローンもほぼ返済し終わり、妻と娘の3人家族で特に不自由もなく暮らしていた。
そんな中、近所を恐怖に陥れる事件が発生する。
自分と同世代の少女たちが、次々と遺体で発見されるという恐ろしい事件。
『彼女』も自分と同じ世代の少女たちが行方不明となり、遺体となって発見されるというこの事件に恐怖を感じていた。
もしも、次が自分だったら……。
被害に遭った少女の中には、自分と同じ中学校に通う子もいた。
もしあと1本、通学路が街道の内側だったら……。
そんな近所の子だった。
学校に行くのが怖い。
そう思うようになった彼女に、父は優しくこう言った。
「大丈夫、ハルは絶対に危険な目には遭わせないから。」
そんな父が頼もしく、格好よく見えたことを、娘・ハルは今も心から悔やんでいる。
違和感を感じ始めたのは、夏だった。
「ねぇパパ。キャンプに連れて行ってよ。」
毎年恒例のキャンプが、ハルは大好きだった。
父の、少し大き目な車に乗って、川岸に車中泊したり、持ってきたテントを張ってその中で夜を過ごしたり。
そんな日常から離れた1日が、ハルは大好きだったのだ。
しかし、その夏は違った。
「そうだね。それじゃ少し離れた駅前にできた、新しいオートキャンプ場に行こうよ。楽しそうだ。」
父にオートキャンプ場を勧められたのは、後にも先にもこの日だけであった。
「えー、いつものようにお父さんの車で行こうよ。テント持ってさ。」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、ちょっと荷台が壊れてしまっていてね。直すほどじゃないんだけど、ちょっと荷物を積むには不安でね。」
あの時、父は『荷台が壊れた』そう言っていた。
中学生のハルは、それを信じて疑うことはしなかった。
自分を守ると言ってくれた父に、娘が疑いを持つことなど、出来ない。
その夏は、父と二人でオートキャンプ場でキャンプを楽しんだ。
思ったよりも楽しくて、それなりに思い出に残った1日となった。
そのキャンプの思い出が、今ではハルにとって辛く悲しい思い出の1ページとなってしまった。
あのキャンプに行った夏……
父は既に数人、殺めていたのだから。
『彼女』の名前は、雨宮 ハル。
栃木県を、そして日本全国を震撼させた連続少女殺害事件の犯人の、娘である。
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