第1話B:終わりの始まり。

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血痕のついたロープ。 それほどの長さではないものの、擦れた跡がよく目立つ。 そもそも、父はロープを使うような仕事をしていない。 最近の家でも、こんなものを使うような光景は見られなかった。 「なに、これ……」 ハルの心臓が高鳴る。 何か、良からぬことが起こっているのではないか。 そんな予感でいっぱいになる。 「トランク……開くかな?」 ハルは、恐る恐るトランクに手をかけた。 施錠されていれば、トランクも開かない。 ……そうあって欲しかった。 ―――ガチャリ――― そんなハルの願いとは裏腹に、トランクが開く。 ゆっくりと、大きな音を立てないように、ハルはトランクを開けた。 父はまだ風呂だろうか? 出ていたとしたら、車の様子を見に戻ってくるだろうか……? 気が気ではなかった。 もし、こんなところを父に見つかってしまったら、自分はどうなってしまうのだろうか……? 小さく足が震えた。 普段は優しく、笑顔な父。 そんな父が豹変することなど、想像も出来なかった。 トランクの中にあったもの、それは……。 「写真と……袋?」 黒く大きな袋、そして数枚の写真が入っていた。 ハルは、小さく震える手で、写真の1枚を手に取る。 「……!!!」 その写真に写っていたのは、数人の少女。 そのうちの数人は、最近テレビで見たことがある顔ぶれだった。 「この子達……殺人事件の……。」 悪寒がした。 一気に口が渇いた。 声が、全く出なくなった。 写真、ロープ、そして袋……。 次々と良くないイメージがハルの頭の中に流れていく。 さらに注意して、トランクの中を調べる。 もう、探る手の指先の感覚が完全に無くなってしまったかのようだった。 冷たい、ジュラルミンの小さな小箱。 施錠などはされておらず、無造作に放り投げられたといった様子であった。 ハルは、ゆっくりと箱を開け…… 「……ひっ!!」 恐怖で声を詰まらせた。 その箱の中には、赤黒い『何か』が付着した、大きなナイフが入っていたのだ。 箱の内側にも、おびただしい量の血痕が付着していた。 「嘘……だ」 雨の中、ハルはその場にへたり込んだ。 ロープで少女たちを縛り、大きなナイフで少女たちを突き刺し、そして大きな袋に遺体を入れて運んでいく、そんな父の姿が脳裏に浮かんでしまった。 「嘘だ……こんなの、何かの冗談……」 散らばった写真を、もう一度見る。 間違いない。 事件の被害者のなってしまった少女たちだ。 しかし、その写真の中には、被害者として公表されていない少女の写真もあった。 「もしかして、これ……これから狙われる女の子たち……?」 背筋が、凍り付くようだった。 ハルは、とりあえず元の場所に写真やナイフ、袋とロープを戻した。 父に気付かれないように。 そして、傘もささずに走ってコンビニに向かった。 少しだけ寄り道して、買い物が遅れてしまったことにするために。
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