第1話B:終わりの始まり。

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「遅かったじゃない、大丈夫だった?」 返ってくると、母が心配そうな表情でハルの顔を覗き込んだ。 「大丈夫だよ、ちょっとコンビニ寄ったら好きなアイドルが表紙の雑誌みかけちゃってさ。読んでたら遅くなっちゃった。」 「全くもう……最近は事件なんかもあるんだから、女の子が遅くまでいたら危ないよ?」 「……うん。」 きっと母も、自分の夫が連続殺人犯などとは思ってもいないだろう。 普通はそうだ。 打ち明けてしまおうか……ハルは迷った。 「それよりハル、あなたずぶ濡れじゃない。傘、持ってかなかったの?」 「うん……雑誌読んでる間に、盗まれちゃった。」 本当は、傘など持って行っていない。 車で見たことが衝撃的過ぎて、それ以降『冷たい』という感覚がなくなってしまっていたのだ。 「もう……。風邪ひくから、先にお風呂入ってきちゃいなさい。お父さん、もう出たから。」 「うん……。」 母から『お父さん』という言葉が出た瞬間、身体が強張った。 母に気付かれてしまっただろうか? ハルは足早に風呂場へと向かった。 「なんだ、やっと帰ったのかい?」 風呂場のドアを開ける直前、父が背後から声をかけた。 (……!!!) 思わず声が出てしまいそうになったが。ハルはそれを必死に飲み込んだ。 「うん……寄り道しちゃった。」 「母さん、心配してたよ。」 「ごめん……ね。」 どの口が、とも思ったが、余計なことを言って勘ぐられてしまうのも問題だ。 出来るだけ平静を装って、ハルは浴室へと逃げ込んだ。 しっかりと湯舟には湯が張られていて、追い炊きまでしてあったが、ハルは湯舟には入らずシャワーだけで済ませた。 父と同じ湯に入ることに、これまで抵抗はなかったのだが、今回は違った。 身体中についた返り血や、死臭を洗い流していた、そのあとの入浴だと思うと、気持ちが悪くて湯に浸かることなど出来なかった。 もしかしたら、自分の勘違いかもしれない。 そう、何度も思い込もうと必死になったが、もう、ハルは父の車の中から決定的なものを見てしまったのだ。 今更、父は犯人ではないと思い込むことの方が困難である。 「どうしよう、どうしよう……。」 ハルは考えた。 母に打ち明けるべきだろうか? しかし、母にもしこんなことを言ったら、母はどうなってしまうのだろうか? そんなこと、想像も出来なかった。 もう少し、様子を見ようか? もっと決定的な何かを発見したときに、通報しようか…… いや、それではだめだ。 その間に新たな犠牲者が出ないという保証はない。 ハルは、一晩中悩んだ。
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