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その夜は、全く眠れなかった。
もし、このまま通報しなかったら、また新しい犠牲者が出るかもしれない。
車の中にあった、写真。
屈託のない笑みを浮かべる、あの少女たちのの誰かが、無慈悲に殺されてしまうかもしれない。
だが、もし通報したら……。
母は、どうなってしまうのだろう?
父をひとかけらも疑っていない母。
もしも父が、連続殺人事件の犯人だと知ったら……?
優しく、いつも笑顔の母がもし事実を知ったら、そう思うと胸が痛む。
そして、何より……。
(お父さんが、まさかお父さんが……)
そう、これまでの父の思い出。
それはいつも優しく、少し頼りないけどっ自分のことをいつも大事にしてくれていた、そんな父しか浮かんでこないのだ。
父に限って、まさか。
そんな気持ちが、ハルの心の中を埋め尽くしていく。
「でも……もしも、お父さんが本当に犯人だったら……。」
父が本当に犯人だったら、そう思うと、ハルは早く通報しなくてはとも思った。
「もう、7人も人が殺されている。それも、私とそんなに年も変わらない女の子ばかり……。もう、ここで止めないと……。」
これまでの父。
少し照れ臭かったが、ハルが父が大好きだった。
そんな父に、これ以上罪を重ねてほしくない。
たとえ、今の時点で逮捕され、重い罪を課せられたとしても。
「お母さんには、言わない方が良いよね……。」
必死に考えた結果、ハルは自分で警察に通報することにした。
母に相談しても、冗談だとしか思われない可能性があるからだ。
何より、母に伝えたとして、父が上手く話しをごまかして、これまで残してきた証拠を全て処分してしまうかもしれない、そう思ったかただ。
ハルは、緊張した面持ちで110番通報する。
「こちら110番です。事件ですか、事故ですか?」
淡々と落ち着いた口調で話す、警察官。
「事件……です。」
「事件ですか? どういった?」
「これまでに起こっている、殺人事件についてです……。」
「……今、周囲には誰もいませんか?」
ハルの言葉を聞いた警察官は、少しだけ口調を変えた。
これまで偽情報に踊らされ、有力な手掛かりが何もない連続殺人事件。
そんな通報に警察もナーバスになっているのだ。
「いません。」
「どんな情報でしょうか?」
ハルは、少しの間、黙り込んだ。
その様子がおかしいことに、警察官も気づいたのだろう。
「大丈夫、あなたのことは警察が必ず守ります。だから、勇気をもって……。」
それは、ハルのことを第三者だと思っての、警察官の優しい言葉。
しかし、これから話そうとしている通報者は、犯人の娘なのだ。
「わ……私の父が、犯人です……。」
震える声で。
しかし確かにハルは、そう警察官に告げた。
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