第1話B:終わりの始まり。

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その夜は、全く眠れなかった。 もし、このまま通報しなかったら、また新しい犠牲者が出るかもしれない。 車の中にあった、写真。 屈託のない笑みを浮かべる、あの少女たちのの誰かが、無慈悲に殺されてしまうかもしれない。 だが、もし通報したら……。 母は、どうなってしまうのだろう? 父をひとかけらも疑っていない母。 もしも父が、連続殺人事件の犯人だと知ったら……? 優しく、いつも笑顔の母がもし事実を知ったら、そう思うと胸が痛む。 そして、何より……。 (お父さんが、まさかお父さんが……) そう、これまでの父の思い出。 それはいつも優しく、少し頼りないけどっ自分のことをいつも大事にしてくれていた、そんな父しか浮かんでこないのだ。 父に限って、まさか。 そんな気持ちが、ハルの心の中を埋め尽くしていく。 「でも……もしも、お父さんが本当に犯人だったら……。」 父が本当に犯人だったら、そう思うと、ハルは早く通報しなくてはとも思った。 「もう、7人も人が殺されている。それも、私とそんなに年も変わらない女の子ばかり……。もう、ここで止めないと……。」 これまでの父。 少し照れ臭かったが、ハルが父が大好きだった。 そんな父に、これ以上罪を重ねてほしくない。 たとえ、今の時点で逮捕され、重い罪を課せられたとしても。 「お母さんには、言わない方が良いよね……。」 必死に考えた結果、ハルは自分で警察に通報することにした。 母に相談しても、冗談だとしか思われない可能性があるからだ。 何より、母に伝えたとして、父が上手く話しをごまかして、これまで残してきた証拠を全て処分してしまうかもしれない、そう思ったかただ。 ハルは、緊張した面持ちで110番通報する。 「こちら110番です。事件ですか、事故ですか?」 淡々と落ち着いた口調で話す、警察官。 「事件……です。」 「事件ですか? どういった?」 「これまでに起こっている、殺人事件についてです……。」 「……今、周囲には誰もいませんか?」 ハルの言葉を聞いた警察官は、少しだけ口調を変えた。 これまで偽情報に踊らされ、有力な手掛かりが何もない連続殺人事件。 そんな通報に警察もナーバスになっているのだ。 「いません。」 「どんな情報でしょうか?」 ハルは、少しの間、黙り込んだ。 その様子がおかしいことに、警察官も気づいたのだろう。 「大丈夫、あなたのことは警察が必ず守ります。だから、勇気をもって……。」 それは、ハルのことを第三者だと思っての、警察官の優しい言葉。 しかし、これから話そうとしている通報者は、犯人の娘なのだ。 「わ……私の父が、犯人です……。」 震える声で。 しかし確かにハルは、そう警察官に告げた。
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