第1話B:終わりの始まり。

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通報してからは、早かった。 ハルが後悔するよりも早く、警察が家にやってきた。 「な、何ですか?」 当然、突然の刑事たちの来訪に母は驚き、戸惑い……。 父はあっさりと自白した。 「……ここまでたどり着いてしまいましたか。完全に隠していたはずなのに、何故でしょうか……。」 慌てるでもなく、刑事が車を入念に調べるのを、父は黙って、そして落ち着いてみていた。 凶器のナイフ、被害者を入れていただろう袋。 そして、これまでの被害者の写真と、これからターゲットにする予定だった少女の写真。 それら全てが、自分が用意し犯行に使ったものだと、父はあっさりと認めた。 「どうして……どうしてそんなことを……!」 自白を近くで聞いていた母は、茫然自失と言った様子で、呟くように父に訊ねた。 しかし、父はうっすら笑顔を浮かべたまま、こう答えた。 「君にもハルにも、きっと一生分からないよ、この気持ちはね。」 こうして、少女7人を殺害したおぞましい事件は、ハルのたった一言の通報によって、あっさりと解決を迎えた。 その後の取り調べの結果、父はその人柄の良さで少女たちに声をかけ、道案内を頼むという口実で少女たちを人込みから離し、一度クロロホルムで眠らせてから袋に入れて移動。 その際、用意しておいたホテルリネンのクリーニング業者の制服に着替えていたらしい。 少女の入った袋を担いでいても、その姿からクリーニングするリネン関係の袋だと周囲に思わせるためである。 故に、少女を眠らせる場所は、ホテルの地下駐車場の一角であることが多かったという。 「そんな場所に、みんな疑いもなくついていったのか?」 刑事のこの質問には、父はこう答えた。 「道案内を頼む場所は、少女を眠らせるためのホテルの地下駐車場。その道中でこう言うんです。私には君と同じくらいの娘がいる。久しぶりに娘に会うのだが、何を話していいかわからない。嫌われてるかもしれない。上手く話せる自信がない……と。」 ハルの父は、その穏やかそうな雰囲気で、被害者たちと同じ年頃の娘がいるということを話し、被害者たちの警戒心を無くそうとしていたのだ。 結果、被害者たちは皆、抵抗した形跡がない。 「苦しまないように、眠っている間に心臓を一突きして命を奪いました。性的な行為は一切ありません。子供に興味はありませんからね。」 ハルの父の言葉に嘘はなかった。 被害者たちには一切の服装の乱れ、ハルの父の衣服・皮膚・体液などの痕跡が一切存在しなかったのである。
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